労災の「症状固定」とは?後遺障害認定・損害賠償請求まで弁護士が解説

労災事故でけがを負い、治療を続けていると、医師から「症状固定です」と言われることがあります。

しかし、「症状固定とはどういう意味?」 、「まだ痛みが残っているのに治療終了?」 、「後遺障害の申請はどうすればいい?」 、「会社に慰謝料を請求できる?」

と不安になる方は少なくありません。

実際、症状固定は「すべて終わり」という意味ではありません。
むしろ、症状固定後は、後遺障害等級認定、障害補償給付の申請、会社への損害賠償請求など、将来の補償額を左右する非常に重要な段階に入ります。

この記事では、労災における症状固定の意味、症状固定後に受けられる補償、会社への損害賠償請求について、労災問題に強い弁護士が分かりやすく解説します。

 

症状固定(治ゆ)とは

労災における「症状固定」は、必ずしも元どおりに回復した状態ではなく、ケガの治療を続けても医学的にそれ以上の改善が期待できなくなった状態のことをいいます。

労災の「症状固定」は、一般的な言葉の「完治」と同じではありません。治療を続けても症状の改善がこれ以上見込めない、または症状が安定して今後大きく変化しにくい状態を、制度上「症状固定」として扱います。症状固定には、完全に回復する場合のほか、一定の悪い症状が残存する場合も含まれます。

症状固定になると、治療そのものが禁止されるわけではありませんが、労災保険の給付が「治療費・休業補償」から「後遺障害の評価や、その後の補償」へと切り替わります。

重要なのは、症状固定日が後の給付額や請求期限の起点になる点です。診断書や申請書に記載される日付は、後からの訂正が難しいこともあるため、医師の説明を受けて納得したうえで確定させることが必要です。

 

症状固定が重要とされる理由

症状固定は、治療と休業補償の段階から、後遺障害の認定とその補償の段階へ移るタイミングを画するため、給付の種類や手続きが大きく変わります。

症状固定が重要なのは、労災保険の給付の設計が「治療中」と「治療後(後遺症が残る場合を含む)」で明確に分かれているからです。治療中は、労災保険の療養補償給付で治療費が全額支給され、治療費が無料になります。休業があれば休業補償給付が支給され、給料の約80%が補償されます。

一方、症状固定後は、療養補償給付と休業補償給付が打ち切られ、後遺障害が残れば障害補償給付の申請に移ります。ここで、後遺障害の等級認定の結果によって、年金か一時金か、支給額がどの程度かが決まります。

症状固定のタイミングが早すぎると、必要な検査やリハビリが不十分で、症状の重さが書類に反映されにくくなることがあります。逆に遅すぎると、手続きが先送りになり、家計や復職計画が立てづらくなります。医学的妥当性と生活設計の両面から、症状固定の適切な時期を見極めることが大切です。

 

症状固定は誰が決める?医師の判断と実務

症状固定の基本は主治医の医学的判断ですが、労災の実務では申請書類や審査の観点も絡むため、判断の進み方や注意点を押さえておく必要があります。

症状固定を判断するのは主治医です。診察や画像検査、可動域測定、神経学的所見、治療反応などを踏まえ、「これ以上の回復が医学的に見込みにくい」と判断されると症状固定となります。

ただし、労災の手続きでは、医師の一言だけで完結するわけではありません。症状固定日を基に後遺障害診断書が作成され、その内容が労働基準監督署の等級認定の判断材料になります。医師が忙しい医療現場では、日常診療のメモが中心になり、生活上の支障や仕事上の制限が十分に書かれないこともあるため、被災労働者の側から具体的に伝えることが重要です。

痛い・しびれるという感覚だけでなく、何がどれだけできないかを事実として伝えることです。例えば「10分歩くと足がもつれて休憩が必要」、「握力が落ちて工具を保持できない」、「夜間痛で睡眠が分断され翌日の集中力が落ちる」など、頻度・時間・距離・動作で説明すると、診断書の説得力が上がります。

症状固定の時期の目安

症状固定の時期はケガや病気の種類、回復経過、治療内容によって異なり、一律の期間で決まるものではありません。

骨折でも転位の有無や手術の有無、神経損傷の併発、職種による負荷の違いで回復が変わりますし、腰や首の痛みのように主観症状が中心のケースでは、症状の波が落ち着くまで評価が難しいことがあります。

実務的な判断材料になるのは、治療内容が「改善目的の治療」から「維持・疼痛コントロール・機能維持」へ移っているか、検査値や可動域が一定期間ほぼ横ばいか、日常生活や就労能力が固定化しているか、といった点です。治療の目的が変わったと感じたら、主治医に今後の見通しと症状固定の可能性を確認しておくのがよいです。

また、症状固定は後遺障害認定のスタートラインでもあります。後遺障害の等級評価に必要な検査が不足していると、後遺障害と認定されなかったり、低い等級の認定がされるため、必要な画像検査、神経学的検査、可動域測定などを実施してください。

 

後遺障害

症状固定後も痛み・しびれ・可動域制限などが残る場合、労災では「後遺障害」として評価され、補償の対象になり得ます。症状固定時に残存する一定の悪い症状などを後遺障害といいます。

症状固定後に残る症状は、生活や仕事への影響が継続するため、労災では、1級から14級までの障害等級で評価します。数字が小さいほど重い障害で、給付の形も金額も大きくなります。

労災の後遺障害の認定で特に差が出やすいのは、痛みやしびれなどの神経症状です。これらは本人の訴えだけだと軽く扱われやすく、画像所見や検査結果など、症状を裏付ける材料があるほど認定されやすくなります。医師に「日常生活・就労で困っている具体的場面」と「検査で確認できる所見」を結びつけてもらえると、後遺障害と認定されやすくなります。

また、後遺障害は診断名だけで決まるものではなく、機能障害や制限の程度で評価されます。同じ部位のケガでも、可動域、筋力、感覚、反復作業の耐性などで評価が変わるため、症状固定前後の記録を丁寧に残すことが大切です。

 

障害補償給付

障害補償給付は、症状固定時に一定の後遺障害が残った場合に請求できる給付です。障害等級は1級から14級まであり、1級から7級は年金が支給され、8級から14級は一時金が支給されるなど、等級により支給形態と金額が大きく異なります。

障害補償給付の申請において重要になるのは、後遺障害診断書です。後遺障害診断書に症状の内容、検査所見、可動域や感覚障害の程度、日常生活・就労上の制限が具体的に記載されているかが重要になります。

後遺障害の審査は労働基準監督署で行われ、追加の資料提出や医療機関への照会が実施されます。障害補償給付の請求には時効があり、原則として症状固定の翌日から5年で権利が消滅するため、症状固定後は早めに必要書類の準備に着手するのが安全です。

 

障害補償給付としていくらもらえるのか?

具体的なケースで、障害補償給付の金額を計算してみます。

毎月の給料が月額30万円、1年間の賞与が60万円の労働者が10月1日に労災事故にまきこまれてしまい、後遺障害8級と認定されたケースで、障害補償給付の金額を計算すると、次のとおりとなります。

 

①障害補償一時金

まずは、直近3ヶ月間の給付基礎日額を計算します。給付基礎日額とは、労災事故前3ヶ月間の賃金の総支給額を日割り計算したものです。

7月は31日、8月は31日、9月は30日なので、(30万円+30万円+30万円)÷(31日+31日+30日)=9,782.6

1円未満の端数は、1円に切り上げるので、給付基礎日額は、9,783円となります。

8級の場合、障害補償一時金は、給付基礎日額の503日分が支給されますので、9,783円×503日=4,920,849円となります。

 

②障害特別一時金

まずは、直近1年間の算定基礎日額を計算します。算定基礎日額とは、労災事故が発生した直前1年間の賞与を365日で割ったものです。

1年間の賞与が60万円なので、365日で割ると、60万円÷365日=1,643.8となり、1円未満の端数は1円に切り上げるので、算定基礎日額は、1,644円となります。

8級の場合、障害特別一時金は、算定基礎日額の503日分が支給されますので、1,644円×503日=826,932円となります。

 

③障害特別支援金

8級の場合の障害特別支援金は、65万円です。

以上を合計すると、4,920,849円(①障害補償一時金)+826,932円(②障害特別一時金)+65万円(③障害特別支援金)=6,397,781円となります。

 

症状固定後の手続きの流れ

症状固定後は、後遺障害診断書の取得から障害補償給付の請求、労働基準監督署による審査、決定通知まで、段階的に手続きが進みます。

手続きは大まかに、症状固定日の確定、後遺障害診断書の作成依頼、請求書の提出、等級審査、決定通知という流れです。最初の症状固定日が、以後の書類の整合性に影響するため、通院状況や治療計画と矛盾しない日付になっているかを確認します。

後遺障害診断書を依頼する際は、主治医に対して、自覚症状を正確に伝えて、後遺障害診断書に漏れなく記載してもらいます。可動域や感覚、筋力などの測定値は、測り方や当日の状態でぶれやすいので、測定時の痛みや代償動作も含めて正確に伝えることが重要です。

障害補償給付の申請書の提出後は労働基準監督署で審査が行われ、必要に応じて追加資料の提出や医療機関照会が行われます。結果が出るまで時間がかかることもあるため、生活費の見通し、会社への説明、通院継続の可否などを並行して検討します。

損害賠償請求

労災給付は被災労働者の過失の有無を問わず受けられますが、会社に労災事故について落ち度があるときは、別途損害賠償請求を検討します。

労災保険は、会社の過失がなくても給付される一方、労災保険からの補償は、損害の全てをまかなうものではありません。たとえば慰謝料は労災給付の対象外で、後遺障害による障害補償給付では、被災労働者が被った損害を完全にカバーするものではありません。

そのため、労災保険では補償されない損害について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。

このとき症状固定は、後遺障害の内容が確定し、将来の損害を見積もる基準時として位置づけられます。後遺障害が残るかどうか、どの程度労働能力が落ちるかは、逸失利益などの算定に関わるため、症状固定時点の医学的資料が重要になります。

 

安全配慮義務違反

労災事故について、会社が安全対策を怠っていた場合、会社に対して、損害賠償請求ができる可能性があります。

すなわち、労災事故で、会社に対して、損害賠償請求をするためには、会社に、安全配慮義務違反が認められなければなりません。

安全配慮義務とは、労働者の生命・健康を危険から保護するように、会社が配慮する義務をいいます。

そして、会社が、労働安全衛生法令やガイドラインに違反していた場合、安全配慮義務違反が認められます。例えば、機械に安全装置が設置されていなかったり、労働者に対して保護具を使用させていなかったり、十分な安全教育が実施されていない場合に、安全配慮義務違反が認められることがあります。

そのため、労災事故が発生した会社に、労働安全衛生法令やガイドラインに違反していなかったについて、検討します。

その結果、会社に労働安全衛生法令やガイドラインの違反が認められた場合、安全配慮義務違反があったとして、会社に対して、損害賠償請求をします。

 

労災とは別に請求できる賠償金(慰謝料・逸失利益など)

労災保険は一定の給付を行いますが、会社に安全配慮義務違反等がある場合などは、別途「損害賠償」として慰謝料や逸失利益、休業損害の差額などを請求できることがあります。

労災保険は、原因が誰にあるかを問わず一定の補償をする制度ですが、だからといって被害がすべて補償されるわけではありません。特に慰謝料は、労災保険の枠組みには存在せず、会社側に責任があるときに民事上の損害賠償として問題になります。

 

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、入院や通院を余儀なくされた精神的苦痛に対する慰謝料です。入院期間、通院期間・頻度、けがの程度、治療内容などの客観事情から算定されます。例えば、入院2ヶ月、通院3ヶ月の場合、入通院慰謝料は、154万円になります。

慰謝料は感覚的な話に見えますが、通院実日数や診療録、治療計画の整合性が重視されます。

 

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、完治せず後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料です。後遺障害の等級に応じた相場がありますので、重い後遺障害であれば、慰謝料の金額も多くなります。

後遺障害慰謝料は、後遺障害等級が前提になるため、認定資料の精度がそのまま金額に直結します。

 

逸失利益

逸失利益は、後遺障害で将来の労働能力が落ち、得られたはずの収入が減る損害をいいます。逸失利益は、基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数で計算します。

基礎収入とは、労災事故の前年の年収のことです。

労働能力喪失率は、後遺障害によって、労働者の労働能力がどれくらいの割合で喪失したかを算出するものです。先ほどのケースの後遺障害8級の労働能力喪失率は目安として45%となります。

労働能力喪失期間は、後遺障害による労働能力が喪失された期間のことで、原則として、67歳から症状固定時の年齢を差し引いて計算します。

先程のケースの場合、40歳で症状固定なので、労働能力喪失期間は、27年間となります。

ライプニッツ係数とは、労災事故などの損害賠償金に生じる中間利息を控除するための係数です。逸失利益の損害賠償請求では、将来にわたる損害賠償金を一度に受け取ることなります。その損害賠償金を運用すると利息が生じるので、この利息分を控除するために、ライプニッツ係数を使用します。27年に対応するライプニッツ係数は、18.3270です。

先程のケースで逸失利益を計算すると、次のとおりとなります。

420万円×45%×18.3270=34,638,030円

この逸失利益の金額から、障害補償給付のうち、障害補償一時金を控除します。障害補償給付のうち、障害特別一時金と障害特別支援金は控除されません。

今回のケースでは、障害補償一時金が4,920,849円なので、会社に対して請求できる逸失利益は、34,638,030-4,920,849=29,717,181円となります。

このように、逸失利益は、数千万円規模になるケースも珍しくありません。

弁護士へ相談するメリット

労災事故で症状固定を迎えた後は、後遺障害認定、障害補償給付、会社への損害賠償請求など、専門的な判断が必要になる場面が増えます。

この段階で対応を誤ると、本来受け取れるはずだった補償を十分に受けられない可能性があります。

そのため、症状固定後はできるだけ早い段階で、労災問題に詳しい弁護士へ相談することが重要です。

 

適正な後遺障害等級の認定を受けやすくなる

症状固定後に後遺障害が残った場合、障害補償給付を受けるためには、後遺障害等級の認定が重要になります。

後遺障害等級は、1級から14級まであり、どの等級に認定されるかによって受け取れる金額が大きく変わります。

しかし、後遺障害認定では、単に「痛みが残っている」「しびれがある」と訴えるだけでは不十分です。

後遺障害の認定では、医師の診断書、画像資料、神経学的検査、可動域測定、治療経過、症状の一貫性 などが重視されます。

弁護士に相談すれば、どのような資料が必要か、後遺障害診断書にどのような点を記載してもらうべきかについて、法的・実務的な観点から助言を受けることができます。

特に、むちうち、腰痛、しびれ、関節可動域制限、高次脳機能障害などは、資料の出し方によって認定結果に差が出ることがあります。

適正な後遺障害の等級認定を受けるためには、症状固定後ではなく、症状固定前から弁護士へ相談して準備しておくことが望ましいです。

 

会社への損害賠償請求が可能か判断できる

労災保険を受け取っている場合でも、会社に対して損害賠償請求ができることがあります。

特に、会社に安全配慮義務違反がある場合には、労災保険とは別に、慰謝料や逸失利益などを請求できる可能性があります。

たとえば、安全教育を十分に行っていなかった、危険な作業を放置していた、機械や設備の点検を怠っていた、保護具を支給していなかった、長時間労働を放置していた、といった事情がある場合、会社の責任を追及できる可能性があります。

しかし、会社に責任があるかどうかは、労災事故状況、業務内容、社内ルール、安全対策、過去の労災事故歴などを総合的に検討する必要があります。

弁護士に相談すれば、会社に損害賠償請求できる見込みがあるかを具体的に判断できます。

 

会社との交渉を任せられる

労災事故後、被災労働者が会社と直接交渉することは大きな負担になります。

特に、勤務先との関係が残っている場合や、退職をめぐる問題がある場合には、精神的なストレスも大きくなりがちです。

弁護士に依頼すれば、会社との交渉を代理してもらえます。

これにより、会社と直接話さなくてよい、不利な発言を避けられる、感情的な対立を防げる、法的根拠に基づいて交渉できる、というメリットがあります。

被害者本人は、治療や生活再建に集中しやすくなります。

 

まとめ

症状固定は労災手続きの節目であり、給付の切替え・後遺障害評価・今後の生活設計に直結します。

症状固定日や診断書の記載が、その後の後遺障害の等級認定や給付、請求期限に影響するため、主治医とよく相談してください。

症状固定後は、療養補償給付と休業補償給付が打ち切られ、後遺障害の認定を受けられれば、障害補償給付を受給できます。後遺障害の認定を確実に受けられるように、資料の準備をします。

後遺障害の認定を受けた後に、会社に安全配慮義務違反が認められる場合には、労災保険から支給されない慰謝料や、労災保険からは一部の補償しか受けられない逸失利益について、会社に対して、損害賠償請求を検討します。

適切な後遺障害の認定を受けたい、会社に対する損害賠償請求ができるかを知りたい場合には、弁護士に法律相談をすることをおすすめします。

 

 

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