労災保険の給付では不十分?

 労働者は労災保険給付だけでは不足する部分を、事業主に対して損害賠償請求を行うことが出来ます。

 労災事故の被災労働者が,事業主に対して,損害賠償請求を行う場合の法律構成には大きく分けて2つあります。

 1つは,労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求で,もう1つは,不法行為に基づく損害賠償請求です。

 

労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求

 事業主は,労働者と労働契約を締結して,労働者に対して指揮監督を行い,事業を運営しています。労働契約を締結した事業主には,労働者の生命・健康を危険から保護するように配慮しなければならない義務を負います(労働契約法5条)。

 

 これを安全配慮義務といいます。事業主が安全配慮義務(債務)を守らなかった(不履行)場合に,事業主は,損害賠償義務を負います(民法415条)。

 

 労働者は、作業における危険を回避するための作業管理や労働環境設備の整備を怠った事業主に対して、安全配慮義務違反として損害賠償請求をすることが出来ます。

 

 また近年では、パワーハラスメントや長時間労働による過労死・過労自殺における,安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求も増加してきています。

 

 当該事件における安全配慮義務の具体的な内容については,ケースバイケースで判断されます。事業主において,労働基準法や労働安全衛生法などの関係法令の違反があって,労災事故が発生した場合には,原則として,安全配慮義務違反が認められると考えられます。

 

不法行為に基づく損害賠償請求

一般的な不法行為においては、故意または過失によって他人の権利を侵害した者が、生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。

 

 不法行為責任が成立するための要件は、以下の4点です。

1)故意または過失が存在すること

2)他人の権利を侵害したこと

3)損害が発生したこと

4)行為と損害との間に因果関係が存在すること

 

 労災事故における不法行為に基づく損害賠償請求では,事業主の過失が争点となることが多いです。

 

 過失とは,注意義務違反のことをいい,事業主が,労災事故や傷病などの発生について予見することが可能であったにもかかわらず,結果を回避する義務に違反したことをいいます。

 

 事業主に過失があったことについて,被災労働者が,証拠に基づいて立証しなければなりません。

 

 作業現場での労災事故や,職場におけるパワーハラスメントやセクシャルハラスメントなど,職場の上司や同僚の故意・過失によって,被災労働者が損害を被った場合には,事業主に対して,民法715条の使用者責任を根拠に,損害賠償請求をすることがあります。

 事業主は、雇用する従業員が業務の執行において第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。これを使用者責任といいます。

 

 使用者責任のが成立するためには3つの要件があります。

1)事業のために使用者が従業員を使用していること

2)その従業員の行為が民法709条の不法行為の要件を満たしていること

3)その損害が事業の執行につき加えられたものであること

 

 職場における同僚のミスで労災事故に巻き込まれたような場合には,使用者責任に基づく損害賠償請求を検討していくことになります。

 

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