未払残業代の計算方法を弁護士が解説【2020年最新版】

1.残業代の計算式

会社に対して、未払残業代を請求するためには、残業代を計算しなければなりません。

残業代は、「時間単価×残業時間×割増率」で計算されるのですが、残業代の計算は思いのほか複雑ですので、以下でわかりやすく解説します。

 

2.用語の解説

残業代の計算をするために、おさえておくべき用語の解説をします。

 

①所定労働時間

労働契約によって定められた労働時間のことで、就業規則に記載されている勤務時間のことです。

 

②所定労働日

労働契約によって定められた勤務日のことです。

 

③所定休日

労働契約によって定められた休日のことです。

 

④法定労働時間

1日8時間以内、1週間40時間以内の労働時間のことをいいます(労働基準法32条)。

 

⑤法外残業

1日8時間を超えて、1週間40時間を超えて労働した場合を法外残業といい、その超えた時間外労働の労働時間について、会社は、残業代を支払われなければなりません(労働基準法37条)。

 

⑥法定休日

会社は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならず(労働基準法35条1項)、この週1回の休日を法定休日といいます。

法定休日に労働した場合、休日の残業代を請求できます(労働基準法37条)。

 

単に土曜日や日曜日、祝日に労働させた場合をいうものではないので注意しましょう。

 

週休二日制の会社で、平日、土曜日、日曜日の7日間連続で働いた場合、通常、日曜日が法定休日になります。

週休二日制の会社で平日と土曜日に働き、日曜日は仕事を休んだ場合、土曜日は、法定外休日といい、休日の残業代は請求できませんが、1週間40時間を超えて労働した場合には、時間外労働の残業代を請求できます。

⑦深夜労働

22時から5時までの時間帯の労働をいいます。

 

 

3.モデルケース

以下のような労働条件のもとで働いている方をモデルケースにして、残業代を計算してみます。

所定労働時間→始業9時、終業18時、休憩時間1時間の8時間

所定休日→土曜日、日曜日、祝日

法定休日→日曜日

賃金→基本給28万円、皆勤手当2万円、通勤手当1万円の月給制

 

4.時間単価の計算

時間単価の計算は、次のとおりとなります。

時間単価=月によって定められた賃金(基礎賃金)÷月平均所定労働時間数

 

⑴基礎賃金

基礎賃金には、会社から支給される全ての賃金が含まれるわけではありません。

労働基準法37条5項と労働基準法施行規則21条に記載されている賃金は除外されます。

この除外される賃金とは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金(結婚手当など)、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)であり、これらの賃金は基礎賃金に含まれません。

モデルケースですと、通勤手当1万円を除いた、基本給28万円と皆勤手当2万円の合計30万円が基礎賃金となります。

 

⑵月平均所定労働時間数

月平均所定労働時間数は次のように算出します。

①年間所定労働日数の計算

1年間の日数-年間所定休日数=年間所定労働日数

2020年の場合、閏年で、モデルケースですと、年間所定休日日数は120日ですので、366日-120日=246日となります。

 

②年間所定労働時間数の計算

年間所定労働日数×1日の所定労働時間=年間所定労働時間数

モデルケースですと、246日×8時間=1,968時間となります。

 

③12で割る

年間所定労働時間数÷12=月平均所定労働時間数

モデルケースですと、1,968時間÷12=164時間となります。

モデルケースで時間単価を計算すると、30万円÷164時間=1,829円(四捨五入)となります。

 

5.割増率

⑴法外残業の場合

1日8時間、1週間40時間を超えて労働した法外残業の割増率は25%です。

法外残業の場合、常に所定労働時間を超えた労働となり、所定労働時間の労働に対して支払われる賃金(所定賃金)ではカバーさず、所定賃金に基づき算出される時間単位の賃金100%部分も請求できるので、結果として、125%の残業代が請求できます。

 

なお、法外残業が22時から5時の深夜労働の時間帯に及んだ場合、割増率は50%になり、150%の残業代が請求できます(深夜労働が所定労働時間内の場合には、25%の割増率となります)。

 

⑵法定休日の場合

モデルケースにおいて、平日、土曜日、日曜日に連続で働いた場合の日曜日が法定休日になり、法定休日の割増率は35%です。

法定休日では、135%の残業代が請求できます。

なお、休日労働が22時から5時の深夜労働の時間帯に及んだ場合、割増率は60%になり、160%の残業代が請求できます。

 

6.実際の計算

モデルケースで、2020年6月1日月曜日に9時から20時まで、休憩時間1時間をとって、2時間法外残業した場合、残業代は次のように計算します。

1,829円(時間単価)×125%(割増率)×2時間(残業時間)=4,573円(四捨五入)

 

モデルケースで、2020年6月1日月曜日から6月5日金曜日まで毎日8時間以上働き、6月6日土曜日にも働き、6月7日日曜日の法定休日に8時間働いた場合、残業代は次のように計算します。

1,829円(時間単価)×135%(割増率)×8時間(残業時間)=19,753円(四捨五入)

 

7未払残業代請求については当事務所にご相談ください

未払残業代請求の計算は、1週間に40時間を超えた労働時間の算出や、日や時間帯によって割増率が変化したりと、複雑です。

このような複雑な未払残業代の計算をする場合には、「きょうとソフト」という、残業代計算ソフトを利用することがおすすめです。

弁護士に依頼すれば、「きょうとソフト」を使って容易に未払残業代を計算することができます。

 

また、未払残業代の請求権は、2年の消滅時効で消えてしまいますので(2022年4月以降の消滅時効は3年になります)、早急に、時効を中断するための手続をとる必要があるのです。

当事務所には、未払残業代請求に精通した弁護士がいますので、会社に対して、未払残業代を請求したい場合には、お気軽にご相談ください。