労災事故でご家族を亡くされた方へ【弁護士が解説】
1 労災申請をする
夫が労災事故にまきこまれてしまい、死亡しました。
一家の大黒柱が突然いなくなってしまい、残された私と2人の子供は、今後、どのようにして生活していけばいいのか、とても不安です。
また、労災事故で夫が死亡したにもかかわらず、会社の対応は、不誠実で、信頼できません。
家族が労災事故で死亡した場合、どうすればいいのでしょうか。
結論から先に言いますと、労災申請をして、労災と認定された後に、会社に対して、損害賠償請求をすることを検討します。
今回の記事では、労災事故でご家族を亡くされた方が、どのように対処すべきかについて、わかりやすく解説します。
労災事故でご家族を亡くされた方が、まずすべきことは、労災申請です。
労災事故によるご家族の死亡が労災と認定されれば、労災保険から、ご遺族に対して、遺族補償給付が支給されます。
すなわち、労働者が死亡した当時、その労働者の収入によって生計を維持していたご遺族に対して、補償金が支給されます。
死亡した労働者と同居していた場合、生計を維持していたご遺族に、遺族補償給付が支給されます。
また、死亡した労働者の収入によって生計の一部を維持していた、共稼ぎであっても、遺族補償給付が支給されます。
そして、ご遺族に対して、遺族補償給付として、①遺族補償年金、②遺族特別年金、③遺族特別支給金が支給されます。
例えば、死亡当時の年齢が40歳の労働者、年収が約500万円で、死亡前3ヶ月間の平均賃金日額(給付基礎日額といいます)が1万4000円、年間賞与が約73万円、ご遺族が妻及び子供2人(17歳と14歳)のケースで考えてみましょう。
遺族補償年金は、ご遺族の数によって、支給される給付基礎日額の日数分が変わり、支給される金額が変わります。
今回のケースの場合、ご遺族は3名なので、①遺族補償年金は、給付基礎日額の223日分が支給されるので、1万4000円×223日分=312万2000円が、1年間で支給される遺族補償年金の合計額となります。
また、②遺族特別年金も、ご遺族の数によって、年間賞与の金額を365日で割って計算される、算定基礎日額の日数分が変わり、支給される金額が変わります。
今回のケースの場合、ご遺族は3名なので、遺族特別年金は、算定基礎日額の223日分が支給されるので、算定基礎日額は、73万円÷365日=2000円となり、2000円×223日分=44万6000円が、1年間で支給される遺族特別年金の合計額となります。
遺族補償年金と遺族特別年金は、毎年偶数月の中旬に、2ヶ月分がまとめて支給されます。
また、③遺族特別支給金として、はじめに一時金300万円が支給されます。
この他に、葬祭を執り行ったご遺族に対して、葬祭料が支給されます。
今回のケースの場合、給付基礎日額の60日分が、葬祭料として支給されますので、1万4000円×60日分=84万円が支給されます。
さらに、死亡したご遺族に子供がおり、その子供の学費の支払いが困難な場合には、労災保険から、労災就学援護費が支給されます。
今回のケースの場合、ご遺族の子供が17歳の高校生と14歳の中学生なので、高校生の場合は、月額2万円、中学生の場合は、月額2万1000円が支給されます(令和6年4月時点での労災就学援護費の金額です)。
このように、死亡事故が労災と認定されれば、労災保険から、死亡した労働者が本来もらえたはずの収入の一部が、年金という形で、ご遺族に支給されますので、今後のご遺族の生活が一定程度安定します。
そのため、労災事故によってご遺族が死亡した場合、労災申請をするようにしてください。
2 損害賠償請求を検討する
死亡事故が労災と認定された後に、会社に対して、損害賠償請求をすることを検討します。
特に、労災事故の後に、会社がご遺族に対して、誠意ある対応をしなかった場合、ご遺族が、会社に対して、損害賠償請求をすることが多いです。
また、労災保険の遺族補償給付だけでは、死亡した労働者が本来もらえたはずの収入(逸失利益といいます)の全てをまかなうことができません。
さらに、労災保険には、慰謝料に相当する支給はありません。
そのため、労災保険からの支給では不足する逸失利益や、労災保険から支給されない慰謝料について、会社に対して、損害賠償請求をすることを検討します。
例えば、今回のケースで、逸失利益と慰謝料の損害賠償額を計算してみます。
死亡による逸失利益は、年収×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数、という算定方式で計算されます。
生活費控除率は、死亡した労働者の生活費がかからなくなるために、その生活費を控除するための割合のことです。
すなわち、労災事故によって死亡すると、働けなくなるので、収入は得られなくなりますが、その代わり生活費がかからなくなるため、逸失利益の計算の際には、本来かかるはずの生活費が、かからなくなる分を差し引くことになります。
一家の支柱が死亡して、被扶養者が2名以上の場合の生活費控除率は、30%です。
就労可能年数は、通常、67歳までとされています。
ライプニッツ係数は、労災事故の被害者が将来受け取るはずの収入を、現時点の価値に換算するときに使われるものです。
すなわち、逸失利益では、将来にわたる損害賠償金を一度に受け取ることになるので、利息を差し引くことになるのです。
ようするに、一度に受け取ったお金を運用すれば、利息が増えため、現在請求できる金額は、将来もらえるはずの金額からそれまでの利息分を控除した金額になるのです。
今回のケースでは、ライプニッツ係数は、18.7641となります。
今回のケースで、逸失利益を計算すると、500万×(1-0.3)×18.7641=6567万4350円となります。
このように計算した逸失利益から、これまでに受給した遺族補償年金が控除されます。
なお、遺族特別年金と遺族特別支給金は、逸失利益から控除されません。
また、将来支給される遺族補償年金も、逸失利益から控除されません。
労災事故で、一家の支柱が死亡した場合の慰謝料については、2800万円が相場となっています。
以上のとおり、労災保険では、死亡した労働者の全ての損害を補償することはできず、労災保険ではまかないきれない分を、会社に対して、損害賠償請求できないかを検討する必要があるのです。
次に、労災事故について、会社に対して、損害賠償請求をするためには、会社に、安全配慮義務違反が認められる必要があります。
安全配慮義務とは、労働者の生命・健康を危険から保護するように、会社が配慮する義務をいいます。
労災事故では、会社に、労働安全衛生法令やこれに関する通達に違反している場合に、安全配慮義務違反が認められます。
ですので、労災事故の内容から、会社に労働安全衛生法令の違反がなかったかを検討することが重要になります。
また、労災事故の発生に、労働者の落ち度も関与していた場合、過失相殺をされてしまい、認められる損害賠償額から、いくらか控除されることがあります。
この過失相殺で、何割くらい、損害賠償額が減額されるのかについては、労働者の落ち度の程度によって変わってきますので、ケースバイケースで判断していくことになります。
3 弁護士に依頼するメリット
労災事故によって、ご家族が死亡した場合、弁護士に依頼するメリットを3つご紹介します。
1つ目は、労災認定がとおりやすくなることです。
例えば、長時間労働によって、労働者が過労死や過労自殺した場合、労働基準監督署に対して、1ヶ月に80時間から100時間の時間外労働をしたことを証明する必要があります。
この1ヶ月に80時間から100時間の時間外労働をしたことを証明するためには、タイムカードやパソコンのログデータ等の、労働時間を証明する証拠を、どのようにして確保するのかが重要になります。
弁護士は、労働時間を証明する証拠を、どのようにして確保するのかについて、適切なアドバイスをしてくれます。
結果として、労災認定がとおりやすくなるわけです。
2つ目は、会社に安全配慮義務違反が認められるのかの見通しがえられることです。
会社に安全配慮義務違反が認められるためには、労働安全衛生法令の違反がなかったかについての調査が必要になります。
この調査をしなければ、会社に安全配慮義務違反が認められるのかの判断ができません。
弁護士に依頼することで、会社に安全配慮義務違反が認められるのかについて、見通しがたち、会社に対して、損害賠償請求をするか否かについて決断をすることができます。
3つ目は、複雑な損害賠償請求の計算を弁護士に任せられることです。
労災事故における、損害賠償額を計算する場合、過失相殺がどれくらいになるかを予測するのが難しいです。
過去の裁判例を分析する等して、過失相殺がどれくらいされるかを予測していきます。
また、労災保険からの補償を、どの損害項目から控除するかについて、計算のルールを知っておく必要があります。
このように、労災事故における、損害賠償額の計算は複雑であり、弁護士に計算してもらうことで、いくらくらいの損害賠償請求ができるのかを検討することができます。
労災事故でご家族を亡くされて、労災保険からどのような補償を受けられるのか、会社に対して、損害賠償請求をすることができるのかについて、お悩みの場合は、ぜひ当事務所へご相談ください。
弁護士による労働災害の相談実施中!
弁護士法人金沢合同法律事務所では、初回相談無料となっております。
まずは弁護士にご相談いただき、ご自身の状況や今後の動きについて一緒に考えていきましょう。
労働災害に強い弁護士が、あなたの抱えている不安を解消し、明るい未来を切り拓きます。