アスベスト(石綿)

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1石綿(アスベスト)とは

 

石綿(アスベスト)は、天然にできた繊維状けい酸塩鉱物です。

 

石綿は、極めて細い繊維で、熱、摩擦、酸やアルカリにも強く、丈夫で変化しにくいという特性を持っていることから、建材、摩擦材、シール断熱材などの工業製品に使用されてきました。

 

石綿は、人の髪の毛の直径よりも細く、肉眼では見ることができない極めて細い繊維からなっています。
石綿は、飛散すると空気中に浮遊し、人が吸引すると、肺胞に沈着しやすいという特徴があります。

 

石綿繊維は、丈夫で変化しにくい性質があるため、肺の組織の中に長く滞留することになります。
この体内に滞留した石綿が原因となって、肺がんや悪性中皮腫などの病気を引き起こすことがあるのです。

 

石綿による健康被害は、労働者が石綿を扱ってから長い年月を経て出現します

 

 

 

2石綿(アスベスト)の労災認定基準

労働者が仕事をしていたときに石綿を吸引し、それが原因で石綿に関連した疾病にかかったり、亡くなったりした場合、労働基準監督署長から労災の認定を受ければ、労災保険の給付を受けられることができます。

 

石綿による疾病の認定基準について」(平成24年3月29日付基発0329第2号)という石綿の労災認定基準が定められています(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/061013-4c.pdf

 

この労災認定基準によりますと、石綿暴露作業に一定期間従事した結果、石綿による疾病を発症したことが重要となります。

 

石綿による対象疾病

①石綿肺

②肺がん

③中皮腫

④良性石綿胸水

⑤びまん性胸膜肥厚

 

次に、石綿暴露作業とは、次に掲げる作業をいいます。

①石綿鉱山またはその附属施設において行う石綿を含有する鉱石または岩石の採掘、搬出

または粉砕その他石綿の精製に関連する作業

②倉庫内などにおける石綿原料などの袋詰めまたは運搬作業

③石綿製品の製造工程における作業

④石綿の吹付け作業

⑤耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱もしくは保温のための被覆またはその補修作業

⑥石綿製品の切断などの加工作業

⑦石綿製品が被覆材または建材として用いられている建物、その附属施設などの補修または解体作業

⑧石綿製品が用いられている船舶または車両の補修または解体作業

⑨石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)など)などの取り扱い作業

 

そして、労災認定基準に記載されている対象疾病ごとの認定基準を満たしているかを検討します。

 

労災と認定されれば、被災労働者は、治療費が補償されたり、治療中に仕事を休んでいた期間の休業補償を受けられます。
被災労働者が亡くなっていた場合には、ご遺族に遺族補償給付が支給されます。

 

 

 

3石綿健康被害救済制度

⑴石綿による健康被害の救済に関する法律

石綿による健康被害は、長い潜伏期間を経て発症し、原因の特定が難しいという特殊性があります。
この石綿による健康被害の特殊性にかんがみて、石綿による健康被害を受けた者及びそのご遺族で、労災補償の対象にならない者に対して、迅速な救済を図ることを目的とした「石綿による健康被害の救済に関する法律」が存在します。

 

「石綿による健康被害の救済に関する法律」による救済制度は、

①労災補償による救済の対象とならない者を対象とした「救済給付」と、

②労災補償を受けずに死亡した労働者の遺族を対象とした「特別遺族給付金」

の2本柱となっています。

 

 

⑵救済給付

労災補償の対象とならない石綿健康被害者及びそのご遺族は、石綿健康被害救済制度による救済給付を受けられる可能性があります。

 

例えば、石綿を取り扱う工場の近隣に居住していた方、石綿を取り扱う工場で働いていた人の作業着を洗濯していた方、労災保険の対象とならない方(一人親方など)が石綿を取り扱う仕事をしていた場合などが、救済給付の対象となります。

 

救済給付の申請は、独立行政法人環境再生保全機構、地方環境事務所、保健所に対して、申請書を提出しておこないます。
救済給付の指定疾病は、中皮腫、石綿起因性肺がん、著しい呼吸困難を伴う石綿肺、著しい呼吸困難を伴うびまん性胸膜肥厚です。

 

救済給付の内容としては、療養中の方には、医療費(自己負担分が支給されます)、療養手当(医療費以外の入通院に伴う諸経費、日常生活における近親者による介護に要する費用などを勘案したもので、月額約10万円)があります。

 

石綿健康被害救済制度の申請をする前に指定疾病によってお亡くなりになられた方のご遺族には、特別遺族弔慰金(280万円)、特別葬祭料(199、000円)が支給されます。

 

 

⑶特別遺族給付金

石綿暴露作業に従事することにより石綿関連疾病にかかり、これにより平成28年3月26日までにお亡くなりになった労働者のご遺族ついて、労災保険の遺族補償給付を受ける権利が5年の時効によって消滅した場合に、特別遺族給付金が支給されます。

 

特別遺族給付金の申請は、労働基準監督署へ請求書を提出しておこないます。
特別遺族給付金の指定疾病は、石綿肺、肺がん、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚です。

 

特別遺族給付金の内容としては、特別遺族年金(原則として年額240万円)、特別遺族一時金(1200万円)があります。
遺族特別支給金の請求期限は、2022年3月27日までとなっていますので、早目に申請をするようにしてください。

 

 

 

4会社に対する損害賠償請求

 

会社が石綿の危険性を認識しつつ、何らの対策をとらずに労働させたことによって、石綿を原因とする疾病を発症したと主張して、会社に対して、損害賠償請求をすることが考えられます。

 

会社に対する損害賠償請求においては、会社が安全配慮義務(労働者の生命・健康を危険から保護するように配慮する義務)に違反したかが争点となることが多いです。

 

石綿労災の損害賠償請求における安全配慮義務の具体的な内容は次のとおりです。

①粉じん濃度を測定し、その結果に従い改善措置を講じる義務

②石綿粉じんの発生・飛散防止措置(局所排気装置や全体換気装置の設置、湿潤化措置)をとる義務

③適切な呼吸用保護具を適正に使用させる義務

④石綿粉じん対策について、定期的に安全教育や安全指導を行う義務

 

なお、厚生労働省のホームページに、石綿労災の事業場一覧が掲載されていますので、石綿に関する仕事をしたことがある方は、一度、チェックしてみてください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/ichiran/081217-1.html

 

 

 

5国に対する損害賠償請求

石綿暴露作業に従事してきた労働者の多くは、複数の作業現場で働いていた実態があり、労働者が石綿に暴露したときの会社や作業現場を特定できず、どの会社に損害賠償請求ができるのかが不明なことがあります。

 

また、石綿による健康被害は、長期間の潜伏を経て発症することが多く、石綿関連疾患を発症した時点では、会社が既に倒産・廃業していることもあり、損害賠償請求を回収できないリスクがあります。

 

そこで、石綿による健康被害を受けた労働者やそのご遺族が、国に対して、国が石綿により健康被害の危険を十分に認識しながら、規制や対策を怠ってきたことは違法であると主張して、国に対して、損害賠償請求をすることが考えられます。

 

大阪泉南アスベスト訴訟の最高裁平成26年10月9日判決において、昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、国が規制権限を行使して、石綿工場に局所排気装置の設置を義務付けなかったことが、違法であると判断されました。

 

この最高裁判決を受けて、石綿工場で働いていた労働者やそのご遺族の方々が、国に対して、訴訟を提起して、一定の要件を満たすことが確認されれば、国は、訴訟の中で和解手続をすすめて、損害賠償金を支払います。

 

和解の要件は次のとおりです。

 

①昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんに暴露する作業に従事したこと。

②その結果、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚などの健康被害を被ったこと

③提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること

 

和解が成立すると、傷病名や程度に応じて550万円から1300万円の賠償金が国から支払われます。

 

不法行為による損害賠償請求は、損害を知ったときから3年が経過すると時効で消滅するので、石綿による健康被害を被った方は、早目に弁護士にご相談することをおすすめします。

 

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