精神障害・過労自殺の労災認定や損害賠償【弁護士が解説】

1.精神障害に関する労災申請が増えています

 

近年、働き過ぎによるストレスや職場におけるパワーハラスメントが原因で、体調をくずし、うつ病などの精神疾患を発病してしまう方が増えています。

都道府県労働局に設置された総合労働相談コーナーに寄せられる、職場での「いじめ・嫌がらせ」の相談が年々増加しています。

 

(「あかるい職場応援団」のサイトより抜粋)

 

 

また、精神障害の労災申請件数も、年々増加しています。

 

(「平成30年度精神障害に関する事案の労災補償状況」より抜粋)

精神障害の労災申請件数は増加しているにもかかわらず、労災と認定される件数は横ばい状態が続いており、認定率は減少傾向で、約30%と狭き門といえます。

 

精神障害を労災と認定してもらうためにも、弁護士のサポートの必要性が高まっているといえます。

 

 

2.精神障害の労災認定基準

⑴心理的負荷による精神障害の認定基準

厚生労働省は、精神障害の労災認定基準として、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平成23年12月26日付基発1226第1号)を公表しています。

精神障害が労災と認定されるためには、この認定基準に記載されている以下の3つの要件を満たす必要があります。

 

 

 ①対象疾病である精神障害を発病していること

 ②対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

 ③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと

 

 

この3つの要件について詳しく解説していきます。

 

 

⑵対象疾病の発病

精神障害で労災と認定されるためには、被災労働者が、対象疾病を発病していなければなりません。

どんなに強い心理的負荷や過重労働があったとしても、精神障害を発病していないと判断されれば、労災認定を受けることができません。

 

 

この対象疾病とは、ICD-10(世界保健機関が定める診断ガイドラインのことです)でF2、F3、F4に分類される病気です。

代表的なのは、うつ病、双極性感情障害、適応障害などです。

被災労働者が精神科などに通院していれば、対象疾病を発病したことの証明は容易です。

 

 

しかし、被災労働者が自殺した場合(過労自殺)、生前に精神科などに通院しておらず、対象疾病を発病していたのかが問題になることがあります。

 

実際には、過労自殺された被災労働者は、死亡当時に何らかの精神障害を発症していることがほとんどですが、精神科などに通院していない方が多いのが実状です。

 

 

もっとも、過労自殺された被災労働者に精神科などの通院歴がなかったとしても、関係証拠から、被災労働者は死亡当時、対象疾病に該当する精神障害を発病していたと認められれば、精神障害の発病があったと認定される可能性があります。

 

例えば、うつ病は、抑うつ気分、興味と喜びの喪失、易疲労性、活動性の低下、集中力と注意力の減退、自己評価と自信の低下、罪責感と無価値観、将来に対する悲観的な見方、自傷行為や自殺の観念、食欲低下などの症状を伴います。

 

被災労働者の生前に、被災労働者に上記の症状の兆候があったことを家族や同僚に証言してもらったり、被災労働者の日記やブログ、SNSから、上記の症状の兆候がなかったかを調査します。

 

 

また、被災労働者は、不眠や頭痛をうったえて、精神科ではなく内科などを受診していることがあります。

 

そこで、被災労働者の遺品などを調べて、診察券や医療機関のレシートがないかを調べ、それらがあれば、当該医療機関のカルテを開示してもらい、カルテに上記の症状が記載されているかを検討します。

 

このような調査から、精神障害の診断がなかったとしても、精神障害による自殺であることを証明できることがあります。

 

 

⑶強い心理的負荷

精神障害を発病するような強い心理的負荷を生じさせる業務上の出来事が存在したかどうかが、精神障害の労災認定のための重要なポイントとなります。

 

具体的には、精神障害を発病する前6ヶ月の間に、「心理的負荷による精神障害の認定基準」の別表1「業務による心理的負荷表」に記載されている具体的出来事に該当することがあったかを検討していきます。

 

 

別表1「業務による心理的負荷表」に記載されている具体的出来事に該当することがあり、その具体的出来事の心理的負荷の強度が「強」と判断されれば、労災認定されます。

 

例えば、退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず、執拗に退職を求められた場合には、具体的出来事の「退職を強要された」に該当し、心理的負荷が「強」と判断されます。

 

 

また、心理的負荷の強度が「中」の出来事があった場合、精神障害が発病する前6ヶ月の間に、当該出来事の前か後に、1ヶ月100時間程度の時間外労働があれば、総合評価で、心理的負荷の強度は「強」と判断されます。

 

例えば、顧客からクレームを受けたという出来事があった場合、この心理的負荷の強度は「中」なのですが、このクレームの前か後に、1ヶ月100時間程度の時間外労働があれば、総合評価で、心理的負荷の強度は「強」となり、労災認定されます。

 

そのため、精神障害の労災申請においても、長時間労働の調査が重要になります。

労働時間の証明については、過労死のページをご参照ください。

 

 

⑷業務以外の心理的負荷と個体側要因

精神障害の労災認定基準では、業務以外の心理的負荷と個体側要因が除外要件としてあげられています。

 

業務以外の心理的負荷については、「心理的負荷による精神障害の認定基準」の別表2「業務以外の心理的負荷評価表」に記載されている出来事があるか、あるとして、その出来事の心理的負荷の強度はどれくらいかを検討します。

 

 

心理的負荷の強度がⅠやⅡの出来事があっても問題ありませんが、Ⅲの出来事がある場合には、Ⅲの出来事が精神障害の発病の原因と言えるかを慎重に検討していきます。

 

個体側要因の具体例としては、就業年齢前の若年期から精神障害の発病と寛解を繰り返しており、請求に係る精神障害がその一連の病態である場合や、重度のアルコール依存状況がある場合などがあげられます。

 

 

⑸精神障害と自殺

業務により精神障害の対象疾病を発病したと認められる被災労働者が自殺を図った場合、精神障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、あるいは、自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態におちいったものと推定され、仕事が原因で自殺したと認められます。

 

すなわち、自殺の前に精神障害を発症しており、その精神障害の発症が仕事上のストレスが原因であるといえれば、自殺は仕事が原因であるといえるのです。

 

 

 

3.パワーハラスメントと労災

 

職場におけるパワーハラスメントの被害が後を絶たないことから、労働施策総合推進法が改正されて、企業に対して、職場におけるパワーハラスメントの防止措置が義務付けられました。

 

職場におけるパワーハラスメントの防止措置の義務付けは、大企業には2020年6月1日から、中小企業には2022年4月1日から施行されます。

 

改正労働施策総合推進法では、職場におけるパワーハラスメントが、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによって労働者の就業環境が害されること」と定義されました。

 

 

今回の法改正を受けて、「心理的負荷による精神障害の認定基準」の別表1「業務による心理的負荷表」が改正されました。

 

これまでは、上司や同僚等から、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」という出来事で評価されていましたが、今後は、「上司等から身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という出来事で評価されることになります。

 

「上司等から身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という具体出来事において、心理的負荷が「強」と判断されるのは、次の場合です。

 

 

 ・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合

 ・上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合

 ・上司等から、人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃が執拗に行われた場合

 ・上司等から、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃が執拗に行われた場合

 ・心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

 

 

パワーハラスメントを受けたことによって精神障害が発症したとして、労災申請するには、被災労働者がパワーハラスメントを受けたことを証明する必要があります。

 

暴力などの身体的攻撃を受けた場合には、怪我の写真を撮り、病院で治療を受けて診断書をとります。

 

言葉の暴力などの精神的攻撃の場合には、上司等から言われたことをボイスレコーダーなどで録音するのが最も効果的です。録音などの証拠がないと、言った言わないという問題となり、上司等から言われたことを証明できなくなることがあります。

 

 

パワーハラスメントの労災申請をするためには、証拠を集めることが重要になります。

 

 

 

4.精神障害が労災と認定された場合の補償の内容

⑴療養補償給付

精神障害が労災と認定されれば、精神科などの治療費が全額、労災保険から支給されます。

 

⑵休業補償給付

精神障害によって会社を休業している期間、給料のおおむね8割分が労災保険から支給されます。

 

⑶障害補償給付

精神障害の治療を継続してもこれ以上症状が改善せず、被災労働者に後遺障害が残った場合には、その障害の程度に応じて、労災保険から、障害補償給付が支給されます。

精神障害の後遺障害は次の3段階に区分して認定されます。

 

通常の労務に服することはできるが、精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの」は第9級の7の2に該当します。

通常の労務に服することはできるが、精神障害のため、多少の障害を残すもの」は第12級12号に該当します。

通常の労務に服することはできるが、精神障害のため、軽微な障害を残すもの」は第14級の9に該当します。

 

⑷遺族補償給付

過労自殺の場合、ご遺族には、労災保険から遺族補償給付が支給されます。

遺族補償給付の詳しい内容については、過労死のページをご参照ください。

 

 

 

5.会社に対する損害賠償請求

⑴ 労災保険の給付では不十分?

精神障害や過労自殺が労災と認定されても、労災保険からの給付だけでは、被災労働者やご遺族の被った全ての損害が填補されるわけではありません。

 

また、労災保険からは、慰謝料は支給されません。

 

そこで、労災保険の給付では不足する損害分について、勤務先の会社に対して、損害賠償請求をすることを検討します。

 

 

⑵安全配慮義務違反(注意義務違反)

会社は、労働者が生命・身体の安全を確保しつつ労働することができるように、必要な配慮をする業務を負っています(労働契約法5条)。

これを安全配慮義務といいます。

 

 

例えば、具体的な安全配慮義務として、会社は、労働者が過重な労働によって健康を害することがないように、労働時間を適正に管理して、適切な労働条件を措置すべき義務を負っています。

 

また、会社は、必要に応じて、健康診断やメンタルヘルス対策を実施して、労働者の健康状態を把握して健康管理を行い、健康障害を早期に発見すべき義務を負っています。

 

パワーハラスメントの事件では、職場の上司や同僚からのいじめ行為を防止する義務や、職場内の人権侵害が生じないようにするためのパワーハラスメント防止義務が、安全配慮義務の具体的な内容となります。

 

パワーハラスメント防止義務の具体的措置内容としては、①パワーハラスメントの事実の有無・内容についての迅速かつ積極的な調査、②パワーハラスメントの制止などの防止策、③被害者への謝罪、④加害者の異動などの適切な措置があげられます。

 

 

 

6.弁護士にご相談ください

 

 

精神障害の労災申請は増加していますが、認定件数はそれほど変わっておらず、精神障害で労災と認定されるのは狭き門といえます。

 

パワーハラスメントを証明するための証拠や、労災認定基準にあてはまる事実としてどのようなことがあるのかなどを検討するのには、専門的な知識が不可欠となります。

 

精神障害や過労自殺の労災申請や会社に対する損害賠償請求をお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。