化学物質による労働災害

職場において、化学物質を取り扱う際に、その危険性や人体への有害性、適切な取扱い方法などを知らなかったことで、爆発や中毒などの労災事故が発生することがあります。

 

例えば、化学物質について、会社から誤った指示を受けて、その指示に従って業務を行ったところ、有害物質が発生して、労働者がその有害物質を吸引してしまったために、呼吸器の病気を発症するという労災事故が発生したことがあります。

 

化学物質による労働災害を未然に防ぐために、労働安全衛生法や関係法令において、事業者が講ずべき対策が、次のように規定されています。

 

 

①譲渡又は提供する際の容器又は包装へのラベル表示

事業者は、容器に入れ、又は包装した化学物質を労働者に取り扱わせる場合、人体に及ぼす作用や取扱い上の注意などが記載されたラベル表示をする必要があります(化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針第4条)。

化学物質を取扱う労働者が、ラベル表示を見て、化学物質の危険性を認識して、慎重に取扱うように促すことを目的としています。

 

 

②安全データシート(SDS)の交付

安全データシート(SDS)とは、化学物質の性質や危険性・有害性、取扱方法などの情報が記載された文書です。

 

SDSには、化学物質の名称、人体に及ぼす作用、貯蔵または取扱い上の注意、流出その他の事故が発生した場合に講ずべき応急の措置などの情報が記載されています。

 

事業者は、化学物質を労働者に取り扱わせるときは、SDSを常時作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けるなどの方法によって、労働者に周知しなければならないのです(化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針第5条)。

 

 

③化学物質を取扱う際のリスクアセスメントの実施

化学物質を取扱う際のリスクアセスメントとは、化学物質の持つ危険性や有害性を特定し、それによる労働者への危険または健康障害を生じるおそれの程度を見積もり、リスクの低減対策を検討することをいいます(労働安全衛生法57条の3、労働安全衛生規則34条の2の7)。

 

局所排気装置の設置、作業手順の改善、保護具を使用させることなどがリスク低減措置として考えられます。

 

事業者は、リスクアセスメントを実施したら、リスクアセスメントの結果などを労働者に周知しなければなりません(労働安全衛生規則34条の2の8)。

 

 

④安全衛生教育

事業者は、労働者を新たに雇い入れた場合や、作業内容を変更した場合に、労働者に対して、機械や原材料等の危険性や有害性、取扱方法、当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因や予防に関することについて、安全衛生教育を実施しなければなりません(労働安全衛生法59条)。

 

事業者がこれらの対策をしていない状況で、化学物質による労働災害が発生した場合、事業者は、労働者に対する安全配慮義務を怠ったとして、労働者に対して、損害賠償義務を負うことになります。

 

化学物質による労働災害に巻き込まれてしまった場合には、労働者は、会社がこれらの対策を実施していたのかについて、調査をすることが不可欠です。

 

この調査は、労働安全衛生法や関係法令などの専門的知識が必要になりますので、労災問題に詳しい弁護士にご相談することをおすすめします。