公務災害

1 公務災害とは

 公務員の労働災害を公務災害といいます。

 

 一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会の「公務災害の現況~平成28年度認定分~」によりますと(13ページの「3 公務災害発生割合の高い職種の公務災害認定状況」参照),公務災害の認定件数は,教育公務員が最も多く,次いで,警察官,看護師,消防吏員などの順となっています。

 

https://bit.ly/33KbGgI

 

 学校の先生は,慢性的な長時間労働に加えて,保護者対応によるストレスなどが原因で,体調を崩すことが考えられます。

 

 警察官や消防吏員は,危険な仕事をしているので,公務災害にまきこまれることが多いのでしょう。

 

 看護師は,夜勤などの不規則勤務や長時間労働などが原因で体調を崩すことが考えられます。

 

 地方公務員や国家公務員には,民間の労働者に適用される労災保険法が原則として適用されません(労働基準法上の現業事業場で勤務している非常勤の地方公務員には労災保険法が適用されます)。

 

 その代わり,国家公務員には,国家公務員災害補償法が適用され,地方公務員には,地方公務員災害補償法が適用され,公務員が公務災害にまきこまれても,補償がなされます。

 

 ここでは,地方公務員の公務災害をもとに解説します。

 

2 どの制度が適用されるのか

 地方公務員には,様々な職種や勤務形態があり,適用される制度が異なりますので,公務災害にまきこまれた場合,自分には,どの制度が適用されるのかを確認する必要があります。

 

 まず,常勤の地方公務員には,地方公務員災害補償法が適用されます。

 

 次に,非常勤の地方公務員の場合,労働基準法別表第1に記載されている現業事業場に勤務している非常勤の地方公務員には,民間の労働者と同じ労災保険法が適用されます。

 

 労働基準法別表第1に記載されている現業事業場とは,学校,図書館,病院,清掃事業所などです。

 

 労働基準法別表第1に記載されている現業事業場ではない非現業事業所に勤務している非常勤の地方公務員には,地方公務員災害補償法69条に基づく地方公共団体の条例が適用されます。

 

 以下では,常勤の地方公務員の公務災害について説明します。

 

3 公務災害の請求

 地方公務員の公務災害については,地方公務員災害補償基金という機関が,公務災害補償制度の手続を運営しています。

 

 公務災害にまきこまれた地方公務員やご遺族は,地方公務員災害補償基金の支部長宛に,公務災害認定請求書を提出して,公務災害の請求を行います。

 

 公務災害においては,民間の労災保険とは異なる認定基準が定められており,その認定基準に従って公務災害か否かが認定されます。

 

 公務災害の認定基準については,こちらのサイトにまとめられています。

 

https://www.chikousai.go.jp/reiki/tuutatu-nintei/tuutatu-nintei.php

 

 例えば,過労死の認定基準の場合,民間の労災保険の認定基準では,1ヶ月あたりの時間外労働を検討しますが,公務災害の認定基準では,1週間あたりの時間外労働を検討することになります。

 

 このように,民間の労災保険の認定基準と,公務災害の認定基準とは異なる点がありますので,公務災害の認定基準を調査する必要があります。

 

4 公務災害の補償内容

 民間の労災保険と同じように,次の補償制度があり,補償内容は民間の労災保険と同じ水準となっています。

 

 ①治療費が全額補償される療養補償

 

 ②治療により仕事を休業した場合の休業補償

 

 ③療養が長期化した場合の傷病補償年金

 

 ④後遺障害が残った場合の障害補償

 

 ⑤介護が必要な場合の介護補償

 

 ⑥被災した地方公務員が死亡した場合の遺族補償

 

 ⑦被災した地方公務員が死亡した場合の葬儀を行うための葬祭補償

 

 なお,民間の労災保険の休業補償給付は,3日間の待機期間があり,休業4日目から支給されるのですが,公務災害の休業補償には,待機期間がありません。

 

 また,公務災害の場合,病気休暇や病気休職となれば,療養に必要な全期間の給与全額が支給され,昇給への影響もないため,民間の労災保険よりも手厚い補償となっています。

 

5 地方公共団体に対する損害賠償請求

 地方公務員も,民間企業の労働者と同じように,地方公務員災害補償法による公務災害の補償に加えて,使用者である地方公共団体に対して,損害賠償請求をすることができます。

 

 地方公務員災害補償法による公務災害の補償では,被災した地方公務員の後遺障害や死亡についての逸失利益(将来得られるはずだったのに得られなくなった収入)の一部しか支払われませんし,慰謝料は支払われません。

 

 そこで,これらの足りない分について,地方公共団体に対して,損害賠償請求をすることを検討します。

 

 その際には,地方公共団体に,被災した地方公務員の死亡や負傷についての安全配慮義務違反が認められる必要があります。

 

 地方公共団体には,地方公務員の生命・健康を危険から保護するために配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っているところ,公務災害において,地方公共団体が安全配慮義務を尽くしていたかが争点になります。

 

6 公務災害については弁護士にご相談を

 公務災害と認定されるためには,認定基準に記載されている要件を満たす必要があり,そのために,証拠を集めて,認定基準を満たすことを説得的に主張していく必要があります。

 

 また,地方公共団体に対する損害賠償請求については,地方公共団体に安全配慮義務違反があったかについて,証拠に基づいて説得的に主張していく必要があります。

 

 そのため,公務災害についてお悩みの方は,早目に弁護士にご相談することをおすすめします。