コロナで労災は認められる?条件や金額について弁護士が解説

1.はじめに

この度、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患された皆さま、及び関係者の皆さまには、謹んでお見舞い申し上げますとともに、一日も早いご快復を心よりお祈り申し上げます。

 

当事務所としましては、新型コロナウイルスに関連する労働問題について、働く方々にとって役立つ情報を発信してまいります。

 

2.新型コロナウイルス感染症の労災認定基準

 

2020年4月28日、厚生労働省は、「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(基補発0428第1号)という通達を出しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/000626126.pdf

 

この通達が出る前までは、仕事中に新型コロナウイルスに感染したという、自身の感染経路を証明することが必要となり、時間と労力がかかるという問題がありました。

 

この通達によって、仕事中に新型コロナウイルスに感染したとして、労災と認定される基準が緩和される方向になりました。

 

労災と認定されれば、病院の治療費については、国から全額支給されますし、治療中に仕事を休んでいる期間について、給料のおおむね8割の休業補償給付が支給されますので、安心して、新型コロナウイルス感染症の治療に専念できます。

 

 

(1)医療従事者等の場合

患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者などが新型コロナウイルスに感染した場合には、プライベートの活動など、仕事以外で感染したことが明らかである場合を除いて、原則として、労災と認定されます。

 

医師、看護師、介護従事者などは、いつ、新型コロナウイルスに感染するかわからない危険な状況下で働いていますので、迅速な労災保険給付が実施されるように、要件が緩和されたと考えられます。

 

 

(2)医療従事者等以外の労働者の場合

医療従事者等以外の労働者が新型コロナウイルスに感染した場合、業務または通勤における感染機会や感染経路が特定され、感染から発症までの潜伏期間や症状等に医学的な矛盾がなく、業務以外の感染源や感染機会が認められない場合には、労災と認定されます。

 

医療従事者等以外の労働者の場合、感染経路を特定するのがハードルとなります。

 

もっとも、感染経路が特定できなかった場合でも、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下で仕事をしていた労働者が新型コロナウイルスに感染した場合には、潜伏期間内の仕事の状況、一般生活状況などを調査し、個々の案件に即して適切に判断されます。

 

 

①複数の新型コロナウイルス感染者が確認された労働環境下での業務(2人以上の感染が確認された場合)

 

②顧客との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務(小売業の販売業務、バス・タクシーなどの運送業務、育児サービス業務など)

 

 

感染経路を特定できない場合でも、①や②の業務をしていた労働者が新型コロナウイルスに感染した場合には、労災と認定される余地がありますので、あきらめずに、労災申請をすることをおすすめします。

 

感染経路を特定するためにも,いつどこで誰と会ったのかなどを日記などに記録しておくことをおすすめします。

 

 

(3)海外出張の場合

労働者が海外出張へ行き、新型コロナウイルスに感染した場合、出張先の国が多数の新型コロナウイルス感染症の発生国であり、商談などの業務で新型コロナウイルスの感染者などと接触し、業務以外のプライベートな活動中に感染源や感染機会がなくて、帰国後に新型コロナウイルス感染症を発症したのであれば、労災と認定されます。

 

 

3.傷病手当金の受給

 

(1)傷病手当金とは

医療従事者等以外の労働者が仕事中に新型コロナウイルスに感染したとしても、感染経路を特定しないと、労災と認定されないのが原則です。

 

新型コロナウイルスの感染経路を特定するのには、時間と労力がかかり、速やかな労災補償を受けられない場合もあります。

 

そこで、速やかな補償を求めたい時には、健康保険の傷病手当金を受給することを検討します。

 

傷病手当金とは、仕事以外の傷病で欠勤し、給料が支給されない場合に、安心して治療に専念できるように、健康保険の保険者(協会けんぽ・健康保険組合)から賃金の一部に相当する現金が給付される制度です。

 

 

(2)傷病手当金の受給要件

傷病手当金の支給を受けるには、次の3つの要件を全て満たす必要があります。

 

 

①仕事以外の傷病による療養のため労務に服することができないこと

 

②労務不能の日が継続して3日間であること(待期期間)

 

③3日間の待期期間経過後、同一の傷病による労務不能により給料の支払がない日があること

 

 

 

(3)傷病手当金の支給金額

労務不能1日につき、標準報酬日額の3分の2の金額が支給されます。

 

標準報酬日額とは、標準報酬月額を30で割ったものです。

 

標準報酬月額とは、健康保険の保険料や手当金の額を計算するもとになるもので、労働者が受ける様々な報酬の月額の平均を、1級から47級にのいずれかにランク付けしたものです。

 

 

(4)傷病手当金の支給期間

傷病手当金の支給は、支給を始めた日から起算して1年6ヶ月が限度です。

 

 

(5)傷病手当金の受給手続

健康保険傷病手当金申請書に、被保険者が記入する箇所を本人が記入し、会社に「事業主が証明するところ」を記入してもらい、主治医に「療養担当者が意見を記入するところ」を記入してもらい、会社を管轄する協会けんぽの都道府県支部または健康保険組合に提出します。

 

申請から1ヶ月半~2ヶ月ほどで傷病手当金の支給・不支給が決定されます。

 

 

(6)労災保険との調整

傷病手当金の支給を受けた後に、労災と認定された場合、既に支払われた傷病手当金を返還する必要がありますが、労災保険の休業補償給付が支給されますので、休業補償給付を傷病手当金の返還にあてることができます。

 

7.会社に対する損害賠償請求

会社が、適切な新型コロナウイルスの感染予防措置をとらなかったために、労働者が仕事中に新型コロナウイルスに感染して、重症化した場合、会社に対して、損害賠償請求をすることを検討します。

 

会社には、労働災害等を防止し、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、労働者の安全と健康を確保する責務があります(労働安全衛生法3条1項)。

 

また、会社は、労働者が生命、身体の安全を確保しつつ労働することができるように、必要な配慮をしなければなりません(安全配慮義務)。

 

そのため、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない状況においては、会社は、労働者に対する安全配慮義務の一環として、テレワークや時差出勤の導入、消毒液の設置や職場の換気などの感染予防措置を実施する必要があります。

 

会社がこのような感染予防措置を実施せずに、労働者が仕事中に新型コロナウイルスに感染して、重症化した場合には、労働者は、会社に対して、労災保険から支給されない、慰謝料などの損害賠償請求をすることが考えられます。

 

 

8.コロナウイルスに関する労災の相談は弁護士へ

 

新型コロナウイルスに関する労災については、感染経路をどのようにして特定するか、会社には安全配慮義務違反が認められるかなどの専門的な検討が必要になりますので、弁護士へ相談されることをおすすめします。

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まずは弁護士にご相談いただき、ご自身の状況や今後の動きについて一緒に考えていきましょう。

 

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