労災で醜状障害が残った場合の補償と損害賠償請求|後遺障害認定・労災保険・慰謝料を弁護士が解説

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労災事故によって顔・首・頭部などに傷跡ややけど痕が残った場合、「醜状障害」として後遺障害認定を受けられる可能性があります。

醜状障害が後遺障害に認定されると、労災保険から障害補償給付などを受けられる場合があります。しかし、労災保険だけでは慰謝料は支払われません。そのため、会社に安全配慮義務違反などがある場合には、別途、会社に対して慰謝料や逸失利益などの損害賠償請求を検討する必要があります。

この記事では、労災で醜状障害が残った場合の後遺障害等級、労災保険から受けられる補償、会社への損害賠償請求、慰謝料や逸失利益の考え方について、労災問題に詳しい弁護士が解説します。

労災の醜状障害とは何か

醜状障害は「傷あとが残った」という事実だけで必ず認定されるものではなく、部位(外貌・露出面など)や程度、見え方が重要になります。

醜状障害は、けがの治療が終わっても残る瘢痕(はんこん)や線状痕、陥没などが、日常で人の目に触れる程度に存在する場合に、後遺障害として評価されます。ポイントは「痛い」「つらい」といった主観だけではなく、他人が見て分かる外見上の変化として客観的に説明できるかにあります。

労災では、外貌(頭部・顔面・頸部など)と、上肢・下肢の露出面(肘や膝から先)で後遺障害等級が用意されています。外貌や露出面以外でも、醜状の範囲が広い場合は準用という形で等級が認められることがあります。

 

労災保険における醜状障害の対象部位

「醜状障害」とは、治った後も残った外見上の変化が、社会生活で無視できない影響を生み得る状態を指します。

対象部位は大きく、外貌(頭部・顔面部・頸部など、上肢下肢以外で日常的に露出しやすい部分)と、上肢・下肢の露出面(上肢は肘関節以下、下肢は膝関節以下)に分かれます。さらに、胸腹部・背部・臀部・上腕・大腿などは原則として外貌や露出面ではないものの、傷あとが広範囲に及ぶと等級が準用されることがあります。

外貌醜状の後遺障害の認定で重視されるのは「人目につく程度以上」かどうかです。これは、本人が気にしているかではなく、第三者が通常の距離感・視線で見て、傷あと等が明確に分かるかということです。隠れる部位か、離れると分からないか、写真で客観的に確認できるかが、判断の分かれ目になりやすいです。

 

業務災害・通勤災害で醜状障害が問題となるケース

具体的には、機械への巻き込まれや工具による裂創、転倒・墜落による顔面の縫合痕、薬品や熱による熱傷(やけど)、爆発・火災での広範囲熱傷、通勤中の交通事故での顔面外傷などです。

醜状は、治療直後よりも時間経過で見え方が変わる点が重要です。瘢痕は成熟するまで赤みや硬さが変化しますし、形成外科の治療やレーザー等で目立ちにくくなる場合もあります。逆に、植皮の境界がはっきりして色調差が残ることもあります。

そのため、労災の後遺障害認定では「いつの状態を症状固定として評価するか」が結果に直結します。焦って早期に症状固定してしまうと、後から改善したり、逆に想定以上に残ったりしても評価がぶれやすいため、主治医と見通しをすり合わせて記録を積み上げることが効果的です。

 

醜状障害で認定されないケースの例

認定されにくいのは、衣服や頭髪で通常隠れるため第三者が目にしにくい場合や、近くで見ないと分からない程度の薄い色素沈着、写真でも客観的に確認できない程度の浅い傷などです。見え方の再現性が低いと「人目につく程度以上」と評価されにくくなります。

また、部位が基準の枠外と扱われたり、基準で求められる面積・長さに届かなかったりして非該当になることもあります。ここでの落とし穴は、傷の「最大径」だけを示して全体の範囲が伝わらない、陥没や凹凸が写真で分からない、といった資料不足です。

実際には、同じ傷でも照明・角度・距離で見え方が変わります。認定されないケースでは、傷そのものの軽さだけでなく、記録の作り方が不十分で、評価が下がっていることもあるため、提出資料が基準の観点を満たしているかを点検することが重要です。

 

外貌(頭部、顔面部のように、上肢や下肢以外の日常的に露出する部分)の醜状障害

外貌の醜状は、労災保険でも争点になりやすく、等級(7級・9級・12級)のいずれに当たるかは傷跡の種類・大きさ・位置・視認性で判断されます。

外貌の醜状は、顔や首など「隠そうとしても日常的に目に入りやすい」部位であるため、精神的負担や対人関係への影響が大きくなりやすい領域です。一方で、後遺障害の認定は感情論ではなく、傷の種類と大きさ、そして人目につく程度かという客観基準で判断されます。

後遺障害等級の目安はあるものの、実務では「境界」に位置する案件が多いです。例えば線状痕の長さが基準を少し超えるか、瘢痕の面積をどう測るか、陥没が写真でどれだけ明確かで結果が変わり得ます。

 

外貌の醜状障害の定義と対象になる範囲

外貌とは、頭部・顔面部・頸部など、上肢や下肢以外で日常的に露出しやすい部分を指します。ここに残る外見上の変化が、瘢痕(やけどや外傷の治癒後に残る傷あと)、線状痕(縫合痕などの線状の傷あと)、組織陥没(骨折等で凹みが残る状態)として評価対象になります。

重要なのは、他人が見て明確に分かることです。傷が存在しても、通常は眉毛や頭髪で隠れている、日常の姿勢や服装で露出しないといった事情が強いと、醜状としての評価が弱くなりやすいです。

逆に、完全に隠すことが難しい場所や、表情・会話の距離で視線が集まりやすい場所にある場合は、同じ大きさでも心理的・社会的影響が大きいと説明しやすくなります。醜状障害の評価は部位だけで決まらず、見られ方の現実を資料で示すことが重要です。

 

外貌の醜状障害の後遺障害等級表(概要)

外貌の醜状は、7級(外貌に著しい醜状を残すもの)、9級(外貌に相当程度の醜状を残すもの)、12級(外貌に醜状を残すもの)という枠組みで整理されます。ここでいう「著しい」「相当程度」は抽象的ですが、瘢痕の面積、線状痕の長さ、陥没の大きさなどの目安が示されており、加えて人目につく程度以上であることが前提になります。

例えば、線状痕は一定以上の長さがあると評価対象になりやすく、瘢痕や陥没は面積や大きさで区分されます。ただし、数値だけで機械的に決まるわけではなく、顔の中心部か側面か、首の前面か後面かなど、目立ちやすさが当てはめに影響します。

醜状障害の後遺障害認定では、種類(瘢痕・線状痕・陥没)、正確な部位、長さ・幅・面積、そして第三者が見て分かる写真が揃って初めて、基準に沿った評価が可能になります。

 

等級

認定基準

第7級の12

外貌に著しい醜状を残すもの

第9級の11の2

外貌に相当程度の醜状を残すもの

第12級の14

外貌に醜状を残すもの

 

第7級の12の外貌に著しい醜状を残すものとは、以下のいずれかに該当し、人目につく程度以上のものをいいます。

①頭部に手のひら大以上の瘢痕、あるいは頭蓋骨の手のひら大以上の欠損がある場合。

②顔面部に鶏卵大面以上の瘢痕、あるいは、10円銅貨大以上の組織陥没がある場合。

③首に手のひら大以上の瘢痕がある場合。

※注:手のひら大とは指の部分は含みません。

※瘢痕とは、やけどや外傷などの治ったあとにできる傷跡や、組織の欠損部に増殖した肉芽組織が古くなって繊維化したものをいいます。

第9級の11の2の外貌に相当程度の醜状を残すものとは、長さ5cm以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。

また、第12級の14の外貌に醜状を残すものとは、以下のいずれかに当てはまり、人目につく程度以上のものをいいます。

①頭部に鶏卵大面以上の瘢痕、あるいは、頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損がある場合。

②顔面部に10円銅貨大以上の瘢痕、あるいは、長さ3cm以上の線状痕がある場合。

③首に鶏卵大面以上の瘢痕がある場合。

外貌の醜状は、他人が見て傷跡が残っていることが明確に分かることが必要ですので、瘢痕、線状痕、組織陥没があったとしても、眉毛や頭髪によって隠れてしまう部分については、醜状として取扱われないことになります。

顔面の傷あとや手術痕・やけど痕の具体例

顔面では、転倒や衝突で生じた縫合痕が線状痕として残る例が多く、鼻や頬、眉間など位置によって印象が変わります。骨折後に頬骨周辺が陥没したり、プレート固定の手術痕が残ったりするケースもあります。

やけどでは、熱傷瘢痕として赤みや色素沈着、皮膚のつっぱり、光沢、植皮の境界が残ることがあります。ケロイド傾向があると盛り上がりが強くなり、遠目でも凹凸が分かるため、見え方の評価に影響します。

後遺障害の等級判断で問題になりやすいのは、同じ面積でも色調差や凹凸が強いと目立つ点です。写真だけでは質感が伝わりにくいので、診断書に色調、硬さ、盛り上がり、陥没の深さ、触知所見などの記載があれば、外貌醜状の特徴が立体的に伝わります。

外貌醜状が争点になる事例では、傷の存在自体よりも、第三者からの視認性と、仕事や対人場面での不利益がどの程度具体化しているかが問われることが多いです。写真が不鮮明だったり、日常の見え方を再現できていないと、後遺障害の評価が弱くなる傾向があります。

一方で、正面・斜位など複数方向の写真、スケール付きの撮影、診断書の数値記載が整い、さらに接客頻度や配置転換などの就労事情が資料で裏付けられると、後遺障害等級や損害の議論が前に進みやすくなります。

傷の大きさだけでなく、見られる場面、隠せない事情、職業上の要求水準まで含めて立証するほど、説得力のある主張が可能になります。

上肢・下肢の露出面の醜状障害

上肢・下肢の醜状は『露出面』かどうかが出発点です。

上肢・下肢の醜状では、まず肘や膝から先かどうかが重要です。露出しやすい部位として基準が用意されているため、外貌ほど複雑ではない一方、面積の測り方や写真の取り方で評価が割れやすい特徴があります。

手足の傷あと自体は機能障害と違って動きが保たれることも多いですが、職場では半袖や作業着、衛生上の理由で露出が避けられないことがあります。その結果、心理的な負担や対人場面の萎縮が生じ、働き方の選択に影響することもあります。

後遺障害の認定に向けては、基準となる醜状の大きさを正しく示すことに加え、日常の露出状況と仕事上の事情を説明できる資料を揃えることが有効です。

 

上肢・下肢の露出面の範囲と具体例

露出面の範囲は、上肢は肘関節以下、下肢は膝関節以下が基本です。具体的には前腕、手背、手指、下腿、足背、足指などが含まれます。

実際の仕事では、夏場の半袖、衛生服、手袋着用の制限、作業時の安全確認などで、手首や前腕、足首周りが露出する場面が多くあります。そのため、露出面の傷あとが「普段は服で隠れる」と言い切れない職種も少なくありません。

部位が分かる全体写真と、傷のアップ写真をセットで残し、位置関係を明確にするのがよいです。

 

上肢・下肢の露出面の醜状障害の等級基準

露出面の醜状は、後遺障害14級として評価されます。後遺障害の基準では、上肢または下肢の露出面に、手のひら大程度の「醜いあと」を残すものが想定されています。

ここでつまずきやすいのは、面積の伝え方です。傷の最長径だけでは手のひら大に当たるか判断しにくいため、縦横の計測、面積の算定、輪郭が分かる写真が重要です。

写真は、スケール(定規やメジャー)を同じ平面に置き、影が出にくい明るさで、真正面と少し角度を変えたものを撮ると説得力が上がります。皮膚の凹凸は角度で見え方が変わるため、複数カットで補うのが効果的です。

等級

認定基準

14級の3

上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの

14級の4

下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの

 

仕事への影響(接客業・サービス業など)と後遺障害認定への考慮

接客・営業・美容、医療介護など、手や前腕が見える機会が多い職種では、露出面の傷あとが心理的負担になりやすいです。本人の感じ方にとどまらず、顧客対応の場面で視線を意識して動きが硬くなる、説明や会話が消極的になるなど、仕事のパフォーマンスに波及することもあります。

後遺障害認定は基本的に外観の基準で行われますが、損害賠償の場面では仕事への影響が損害の評価に関わることがあります。配置転換、制服変更、長袖の許可、対面業務からの変更などがあれば、事実として記録が残るようにしておくのがよいです。

ポイントは、抽象的に「仕事に影響した」と言うのではなく、いつから何が変わったかを具体化することです。業務日報、上司との面談メモ、就業上の配慮内容など、第三者が確認できる形にしておくほど主張の信頼性が上がります。

 

外貌及び露出面以外の醜状障害

外貌や露出面に当たらない部位でも、広範囲な瘢痕等は後遺障害等級が準用されることがあります。

胸腹部や背中など、普段は衣服で隠れる部位は、外貌や露出面よりも「人目につく」性質が弱いと見られやすく、認定のハードルが上がりがちです。ただし、熱傷や植皮で広い範囲にわたる瘢痕が残った場合は、準用として後遺障害等級として評価されることがあります。

醜状の面積が「どれくらい広いか」が中心になるため、傷の範囲を正確に示す資料が重要です。身体の部位写真だけでなく、どの辺りまで及ぶのかが一目で分かる範囲図や、診断書の具体的記載があると、認定されやすくなります。

 

外貌・露出面以外の部位の取り扱い

外貌・露出面以外として問題になりやすいのは、胸部・腹部・背部・臀部・上腕・大腿などです。これらは原則として日常的に露出する部位ではないため、後遺障害の評価は「広範囲な瘢痕が残っているか」という基準に当てはまるかを検討します。

準用での立証は、醜状の範囲の明確化が最重要です。写真は寄りだけでなく、身体全体の中でどこにあるかが分かる、引きの画像も必要です。加えて、医師に部位名、左右、最大径だけでなく、範囲の広がりを文章で書いてもらうと、説得力が増します。

 

等級

認定基準

12級準用

両上腕または両大腿にあっては、ほとんど全域、胸部または腹部にあっては、各々の全域、背部及び臀部にあっては、その全面積の2分の1程度をこえるもの

14級準用

上腕または大腿にあっては、ほとんど全域、胸部または腹部にあっては、それぞれ各部の2分の1程度、背部及び臀部にあっては、その全面積の4分の1程度をこえるもの

 

醜状障害の後遺障害認定を受けるためのポイント

醜状障害の後遺障害の認定は、診断書と画像資料の質で結果が左右されやすいです。

醜状障害の後遺障害の認定では、傷の性状をどれだけ客観的に伝えられるかが重要です。医師の診断書が抽象的だったり、写真で確認できなかったりすると、非該当になりやすくなります。

また、形成外科治療や瘢痕の成熟で外観が変化するため、症状固定をいつにするかが重要です。早すぎる症状固定は、評価が低く出るだけでなく、その後の変化を説明しづらくなるリスクがあります。

 

医師に依頼する後遺障害診断書の書き方と注意点

医師には、傷あとを「瘢痕」「線状痕」「組織陥没」など基準の言葉で整理してもらい、部位を具体的に書いてもらうことが重要です。どこに、どの種類の傷があるのかが曖昧だと、後遺障害等級の当てはめができません。

数値は、長さ・幅・面積を可能な限り具体的に記載してもらいます。色調(赤み、色素沈着)、盛り上がり、凹凸、硬さ、左右差、境界の明瞭さなど、写真で伝わりにくい要素も文章で記載してもらえると説得力が上がります。

注意点は、後遺障害診断書の数値と写真が矛盾しないことです。測定方法が曖昧だと信用性が下がるため、どの範囲をどう測ったかを医師と共有し、写真撮影も同じ範囲が分かるように揃えることが大切です。

 

症状固定のタイミングと写真・画像の残し方

症状固定は、これ以上の医学的改善が見込みにくい状態をいいますが、醜状では瘢痕の成熟や形成外科治療の予定が絡むため、慎重な判断が必要です。治療計画があるなら、どこまで治療して症状固定にするかを主治医と話し合い、記録しておくと後で説明しやすくなります。

写真は時系列で残します。症状固定時の写真だけでなく、治療後の変化や、赤みが引く過程なども記録しておくと、症状固定時点が適切だったことの裏付けになります。

撮影は、スケールを同梱し、同条件(距離、角度、照明)で、正面と斜位など複数方向を撮るのがよいです。

 

後遺障害等級が認められにくいケースの注意点

衣服で隠れる部位で範囲が小さい場合、色素沈着が軽度で境界が不明瞭な場合、治療で改善見込みが高い場合は、非該当になりやすい傾向があります。ここでは「目立つかどうか」よりも「基準が求める広さや明確さを満たすか」が問題になります。

また、症状固定の判断が早すぎると、後から瘢痕が薄くなっても濃くなっても説明が難しくなります。形成外科治療の計画がある、瘢痕が成熟途中であるといった事情があるなら、症状固定時期について医師と相談し、記録を残すことが重要です。

範囲、面積、性状(色、硬さ、凹凸)、治療経過を具体化するのが効果的です。

 

労災で醜状障害が残った場合に受けられる労災保険の補償

労災事故によって醜状障害が残った場合には、後遺障害に対する補償だけでなく、労災事故直後から治療終了までの期間に、さまざまな給付を受けられる可能性があります。

ここでは、醜状障害が残った場合に受けられる主な補償について解説します。

 

療養補償給付

療養補償給付は、労災事故によるケガや疾病の治療に必要な費用を補償する制度です。

具体的には、次のような費用が対象になります。

  • 診察料
  • 手術費用
  • 入院費
  • 投薬費用
  • リハビリテーション費用
  • 通院に必要な一定の費用

労災指定医療機関で治療を受ける場合には、原則として窓口で治療費を支払う必要はありません。

また、顔面の裂傷や熱傷では、形成外科による治療や複数回の手術が必要となることもあります。医師が必要と判断した治療については、労災保険の対象となる可能性があります。

 

休業補償給付

ケガの治療により仕事を休まざるを得なくなった場合には、休業補償給付を受けられます。

休業補償給付は、療養のため労働することができず、賃金を受けられない日について支給されます。労災保険から、給料の約80%が補償されます。

顔面の大きな裂傷や熱傷では、治療や手術のため長期間仕事を休むケースも少なくありません。

特に接客業や営業職などでは、外見上の傷跡だけでなく、治療のための通院や手術によって長期間休業が必要となることがあります。

 

障害補償給付

症状固定後も傷跡が残った場合には、障害補償給付の対象となる可能性があります。

醜状障害について後遺障害等級が認定されると、その等級に応じて、労災保険から、障害補償年金または障害補償一時金が支給されます。

等級によって支給内容は異なるため、適正な等級認定を受けることが非常に重要です。

労災保険では、障害補償給付とは別に、特別支給金制度が設けられています。

後遺障害等級が認定された場合には、障害特別支給金や障害特別一時金、障害特別年金の対象となることがあります。

具体的なケースで、障害補償給付の金額を計算してみます。

毎月の給料が月額30万円、1年間の賞与が60万円の労働者が10月1日に労災事故にまきこまれてしまい、外貌醜状で後遺障害9級と認定されたケースで、障害補償給付の金額を計算すると、次のとおりとなります。

 

①障害補償一時金

まずは、直近3ヶ月間の給付基礎日額を計算します。

7月は31日、8月は31日、9月は30日なので、(30万円+30万円+30万円)÷(31日+31日+30日)=9,782.6

1円未満の端数は、1円に切り上げるので、給付基礎日額は、9,783円となります。

9級の場合、障害補償一時金は、給付基礎日額の391日分が支給されますので、9,783円×391日=3,825,153円となります。

 

②障害特別一時金

まずは、直近1年間の算定基礎日額を計算します。

1年間の賞与が60万円なので、365日で割ると、60万円÷365日=1,643.8となり、1円未満の端数は1円に切り上げるので、算定基礎日額は、1,644円となります。

9級の場合、障害特別一時金は、算定基礎日額の391日分が支給されますので、1,644円×391日=642,804円となります。

 

③障害特別支給金

9級の場合の障害特別支給金は、50万円です。

以上を合計すると、3,825,153円(①障害補償一時金)+642,804円(②障害特別一時金)+50万円(③障害特別支給金)=4,967,957円となります。

 

労災保険の後遺障害認定を受けるまでの流れ

醜状障害について適正な補償を受けるためには、後遺障害認定の手続を理解しておくことが重要です。

① 治療を継続する

まずは傷跡の治療を十分に行うことが重要です。

特に熱傷や顔面の損傷では、形成外科による治療が長期間続くこともあります。

② 症状固定と診断される

傷跡がこれ以上改善しない状態になったと医師が判断した時点が「症状固定」です。

後遺障害の認定は、この症状固定時の状態を基準として行われます。

③ 後遺障害の申請を行う

症状固定後は、必要書類を添付して、労働基準監督署に対して、障害補償給付の請求を行います。

診断書や写真などの資料が重要となるため、漏れのないよう準備することが必要です。

④ 労働基準監督署による審査

提出された資料を基に、労働基準監督署が後遺障害等級を審査します。

必要に応じて追加資料の提出や照会が行われることもあります。

⑤ 認定結果に納得できない場合

認定された等級に納得できない場合には、不服申立てを行うことも可能です。

傷跡の評価や診断書の内容によって結果が変わることもあるため、弁護士へ相談することをおすすめします。

損害賠償請求

労災給付は無過失補償ですが、会社の安全配慮義務違反などがあれば、別途損害賠償(慰謝料・逸失利益等)を請求できる可能性があります。

労災保険は、原則として過失の有無を問わず補償が受けられる制度です。一方で、労災事故が会社の安全配慮義務違反などによって起きた場合には、労災保険とは別に会社へ損害賠償を請求できる可能性があります。

この賠償は、労災で埋まらない損害を補う役割を持ちます。労災からの給付は生活補償として重要ですが、精神的損害や将来の収入減の全てが補償されるわけではないため、労災事故状況次第では賠償請求の検討価値があります。

ただし、損害賠償請求できるかは会社側の落ち度の有無、注意義務違反の内容、労災事故の予見可能性や対策の有無など、証拠と事実関係で決まります。

 

安全配慮義務違反

会社に損害賠償を請求するには、労災が起きたことに加えて、会社の法的責任(安全配慮義務違反等)を根拠づけることが必要です。

会社への損害賠償請求は、労災認定があるだけで必ず認められるわけではありません。労災事故が業務中に起きたことに加えて、会社が安全に働ける環境を整える義務を怠ったなど、法的責任を具体的に主張立証する必要があります。

典型は安全配慮義務違反です。安全配慮義務とは、労働者の生命・健康を危険から保護するように、会社が配慮する義務をいいます。会社が、労働安全衛生法令やガイドラインに違反していた場合、安全配慮義務違反が認められます。

例えば、危険作業に対する安全教育が不十分だった、保護具が支給されていない、機械の安全装置が不備、作業手順が形骸化していた、過重労働で注意力が低下する環境だったなど、労災事故につながる会社の管理上の問題が焦点になります。

労災事故が発生した会社に、労働安全衛生法令やガイドラインに違反していなかったについて、検討します。その結果、会社に労働安全衛生法令やガイドラインの違反が認められた場合、安全配慮義務違反があったとして、会社に対して、損害賠償請求をします。

責任の立証では、労災事故状況の客観資料が重要です。現場写真、設備点検記録、マニュアル、KY活動記録、シフト表、同僚の証言など、会社側が管理している資料ほど後から入手しにくいため、早期に確保することが重要です。

 

労災保険とは別に請求できる損害賠償金(慰謝料・逸失利益など)

労災保険は一定の給付を行いますが、会社に安全配慮義務違反等がある場合などは、別途「損害賠償」として慰謝料や逸失利益、休業損害の差額などを請求できることがあります。

労災保険は、原因が誰にあるかを問わず一定の補償をする制度ですが、だからといって損害がすべて補償されるわけではありません。特に慰謝料は、労災保険の枠組みには存在せず、会社側に責任があるときに民事上の損害賠償として問題になります。

 

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、入院や通院を余儀なくされた精神的苦痛に対する慰謝料です。入院期間、通院期間・頻度、けがの程度、治療内容などの客観事情から算定されます。例えば、入院2ヶ月、通院3ヶ月の場合、入通院慰謝料は、154万円になります。

醜状障害では、精神的苦痛に対する慰謝料が重要な損害項目です。

顔に傷跡が残ることは、日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。

そのため、傷跡の部位や程度などを踏まえて慰謝料が認められる可能性があります。

 

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、完治せず後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料です。後遺障害の等級に応じた相場があり、醜状障害の場合、14級であれば110万円、12級であれば290万円、9級であれば690万円、7級であれば1000万円が相場となります。

また、醜状障害では、逸失利益が否定された場合、後遺障害慰謝料が増額される可能性がありえます。

 

外貌醜状における逸失利益

外貌醜状は身体機能の喪失と異なり、逸失利益が当然に認められるわけではありません。

逸失利益は、後遺障害によって将来の収入が減る損害です。骨折で関節が動かない、手指を失った、といった機能障害では比較的説明しやすい一方、外貌醜状は「働けない」ではなく「働きにくさ」「評価されにくさ」が問題になりやすく、逸失利益の有無が争点になります。

外貌醜状の逸失利益は、現時点で減収がない人ほど争いになります。会社が配慮して収入を維持しているだけなのか、本人の努力で維持できているが将来の選択肢が狭まっているのかで、評価が変わり得ます。

醜状障害において逸失利益が認められるかどうかは、醜状の程度・部位、職業、年齢、職務内容、対外折衝の頻度、本人の心理的影響などを総合して判断されます。

 

逸失利益の基本的な計算方法

逸失利益は、基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数で計算します。

基礎収入とは、労災事故の前年の年収のことです。

労働能力喪失率は、後遺障害によって、労働者の労働能力がどれくらいの割合で喪失したかを算出するものです。

労働能力喪失期間は、後遺障害による労働能力が喪失された期間のことで、原則として、67歳から症状固定時の年齢を差し引いて計算します。

外貌醜状では、労働能力喪失率が争点になりやすいです。機能障害と違い、醜状障害の場合、後遺障害の等級があっても、労働能力喪失率が当然に決まるわけではないため、どの程度の不利益がどのくらいの確率で将来の収入に影響するかを、慎重に検討する必要があります。

現実の減収がなくても、将来の転職・昇進・配置転換に不利益が見込まれるなら損害として主張することが可能です。

 

醜状障害で逸失利益が認められる場合

醜状障害で逸失利益が認められるのは、第一に醜状の程度と見え方が強いことです。顔面中心部や頸部前面など、会話距離で明確に分かる部位で、色調差や凹凸が目立つ場合は、対人業務への影響を説明しやすくなります。

第二に、仕事との関連です。対外折衝が多い、顧客の印象が成果に直結する、外見上の清潔感が求められるなど、職務の性質と結びつけて不利益を具体化できることが重要です。配置転換や担当変更、営業同席の減少などが起きていれば、逸失利益が認められやすくなります。

第三に、心理的影響が就労に波及していることです。人前に出ることを避ける、対人場面で過度に緊張するなどが就労制限につながっている場合、診療記録や産業医面談の記録が証拠になります。

 

職業別・年齢別の逸失利益の考え方

接客・営業・広報など、対人印象が業務の一部になっている職業では、外貌醜状の影響が生じやすいです。また、美容師、ホテルスタッフ、客室乗務員、モデル、俳優など、外見が職務内容と密接に関係する職業では、その影響はより大きいと考えられます。

年齢では、若年者ほどキャリア形成期間が長く、転職や配置の選択肢が多い分、外貌醜状が将来の機会に影響する可能性がありえます。労災事故当時、若年労働者であった場合には、将来の就職や職業選択の幅が狭まることも考慮されることがあります。逆に、職務が安定している場合でも、管理職登用や異動で対外業務が増えるなどによって評価が変わります。

大切なのは、職業名で決めつけず、実際の業務内容と評価制度を見て判断することです。例えば同じ「事務職」でも受付に近いか、社外対応があるかで影響が異なります。

 

外貌醜状で争いになりやすいポイント

外貌醜状の逸失利益では、「外貌醜状は労働能力低下ではない」「現に減収がない」と反論されることがあります。これに対しては、現時点の収入だけでなく、将来の機会損失や配置転換・評価への影響を具体的に主張立証することが重要です。

また、外貌醜状の逸失利益では、「マスクや制服で隠せる」という反論もありえます。これに対しては、常時の着用が許されるか、業務上不自然ではないか、暑熱環境で現実的かなど、職場の実態を踏まえて主張立証していきます。

さらに、写真の見え方も争いになります。撮影条件が悪いと、醜状が軽く見えてしまうリスクがありますので、醜状の状態が明確に分かる写真を準備することが効果的です。

弁護士に相談・依頼するメリット

醜状障害は『見え方』や『仕事への影響』の主張立証が重要で、労災手続と損害賠償交渉が並行することもあります。

弁護士に法律相談することで、後遺障害のどの等級が狙えるかだけでなく、そのために必要な診断書の記載内容や写真について、適切なアドバイスをもらえます。

精神的負担が大きい局面でもあるため、手続と交渉を分離し、本人は治療と生活の立て直しに集中できる体制を作ることが、結果的に適正な補償につながりやすくなります。

 

適正な等級認定と賠償額の確保につながること

弁護士に相談すると、認定基準に沿った資料を準備できます。具体的には、診断書で書くべき項目、撮影すべき写真、症状固定のタイミング、準用の可能性などを、検討します。

損害賠償請求の場面では、慰謝料だけでなく、逸失利益をどう主張立証するかが重要です。

会社側に安全配慮義務違反などがある場合は、具体的な安全配慮義務違反の内容はなにか、どのような証拠で立証するのかを検討します。

 

会社や保険会社との交渉を代理してもらえること

会社や保険会社との交渉では、示談のタイミング、後遺障害前提の損害算定、労災給付との調整が問題になります。

会社や保険会社からの提示額は、一見もっともらしく見えても、労働能力喪失率がゼロになっていたり、就労可能年数が短く設定されていたり、慰謝料が低く抑えられていたりすることがあります。弁護士は、裁判の基準に基づいて、損害賠償請求の交渉をします。示談交渉がまとまらない場合には、裁判を起こして、適切な損害賠償額の確保に尽力します。

 

まとめ

醜状の後遺障害は、部位(外貌・露出面・準用)と『人目につく程度』の立証がポイントとなり、診断書と写真等の客観資料の整備が結果を左右します。後遺障害の等級に応じて労災給付や慰謝料・逸失利益の金額が変わるため、早めに方針を立てて手続きを進めることが重要です。

醜状障害は、外貌、上肢・下肢の露出面、そして外貌・露出面以外の準用という枠組みで整理します。どの醜状でも、共通して重要なのは、人目につく程度以上であることを客観資料で示すことです。

後遺障害の認定の成否は、診断書の具体性と写真の出来で大きく変わります。傷の種類、部位、長さ・幅・面積、色調や凹凸といった要素を揃え、症状固定の時期も含めて一貫した記録にすることが、効果的です。

労災給付と、会社側に責任がある場合の慰謝料・逸失利益は別の問題です。会社や保険会社からの損害賠償の提示額をうのみにせず、内訳と前提を確認し、適正な補償につなげることが大切です。

 

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