醜状の後遺障害

労災事故にあってしまった場合、怪我の程度によっては傷跡・やけどの跡が残ってしまうことがあります。
このように、傷跡が残ってしまった状態は醜状(しゅうじょう)障害と呼ばれる後遺障害に該当する場合があります。

 

醜状障害の等級認定においては、醜状の部位が日常生活において露出する体の部分にあるのかが重要となります。

 

これまでは、女性にとって、体の傷跡が与える影響は大きいと考えられていたため、男女という性別の違いによって後遺障害の等級が区別されてきました。

 

しかし、現在では醜状障害が与える影響は、男性も女性と同様にあると考えられており、同じ後遺障害の等級になるように改正が行われました。

 

外貌(頭部、顔面部のように、上肢や下肢以外の日常的に露出する部分)の醜状障害

等級

認定基準

第7級の12

外貌に著しい醜状を残すもの

第9級の11の2

外貌に相当程度の醜状を残すもの

第12級の14

外貌に醜状を残すもの

 

第7級の12の外貌に著しい醜状を残すものとは、以下のいずれかに該当し、人目につく程度以上のものをいいます。

 

①頭部に手のひら大以上の瘢痕、あるいは頭蓋骨の手のひら大以上の欠損がある場合。

②顔面部に鶏卵大面以上の瘢痕、あるいは、10円銅貨大以上の組織陥没がある場合。

③首に手のひら大以上の瘢痕がある場合。

 

※注:手のひら大とは指の部分は含みません。

 

※瘢痕とは、やけどや外傷などの治ったあとにできる傷跡や、組織の欠損部に増殖した肉芽組織が古くなって繊維化したものをいいます。

 

第9級の11の2の外貌に相当程度の醜状を残すものとは、長さ5cm以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。

 

また、第12級の14の外貌に醜状を残すものとは、以下のいずれかに当てはまり、人目につく程度以上のものをいいます。

 

①頭部に鶏卵大面以上の瘢痕、あるいは、頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損がある場合。

②顔面部に10円銅貨大以上の瘢痕、あるいは、長さ3cm以上の線状痕がある場合。

③首に鶏卵大面以上の瘢痕がある場合。

 

外貌の醜状は、他人が見て傷跡が残っていることが明確に分かることが必要ですので、瘢痕、線状痕、組織陥没があったとしても、眉毛や頭髪によって隠れてしまう部分については、醜状として取扱われないことになります。

 

また、醜状障害を負ってしまうと、被害者の多くはすぐに美容形成を行なおうとされますが、医大系の病院においては、醜状の安定を図った上で形成外科での治療が開始されることがありますので、あせって美容形成の治療を急ぐ必要はない点を理解し、治療を受けていくことが重要になります。

 

上肢・下肢の露出面の醜状障害

等級

認定基準

14級

上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの

14級

下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの

 

上肢の露出面とは、肘関節以下のことをいい、下肢の露出面とは、膝関節以下のことをいいます。

 

外貌及び露出面以外の醜状障害

 

等級

認定基準

12級準用

両上腕または両大腿にあっては、ほとんど全域、胸部または腹部にあっては、各々の全域、背部及び臀部にあっては、その全面積の2分の1程度をこえるもの

14級準用

上腕または大腿にあっては、ほとんど全域、胸部または腹部にあっては、それぞれ各部の2分の1程度、背部及び臀部にあっては、その全面積の4分の1程度をこえるもの

 

外貌醜状における逸失利益

労災事故によるけがが完全に治癒せず、後遺障害が残り、その後遺障害によって労働能力が低下した場合には、労働能力の低下によって、将来もらえるはずの収入が減少することを損害として賠償請求することができます。

 

このように、後遺障害によって労働能力が低下して、将来もらえるはずの収入が減少する損害のことを逸失利益といいます。

 

例えば、機械に手を巻き込まれてしまい、手関節とひじ関節の間において上肢を切断してしまった場合、第5級の2の「1上肢を手関節以上で失ったもの」に該当します。

 

手を切断しまっては、荷物を運ぶことやパソコンを操作することが困難になります。
そのため、この場合、労働能力が79%失われたと評価されます。

 

他方、外貌醜状の後遺障害の場合、身体の機能や能力が失われるものではないため、逸失利益が認められるかが争点となることがあります。

 

外貌はその人の印象を大きく左右しますので、外貌に醜状があることによって、他者と積極的にコミュニケーションをとれなくなり、円満な対人関係を築いていくことが困難になることがあります。

 

そこで、裁判では、醜状の内容・程度、被災労働者の職業・性別、将来の就職・転職・昇進・昇格への影響、対人関係や対外関係への支障、といった要素を総合考慮して、外貌醜状による逸失利益が認められる場合があります。