労災で高次脳機能障害になったら?後遺障害と損害賠償請求について弁護士が解説

家族が建設現場で作業をしていたところ、高所から転落してしまい、脳を負傷しました。

幸い、命はとりとめたのですが、労災事故後、昔の記憶がなくなり、会話をすることが困難になりました。

主治医からは、高次脳機能障害を発症していると言われました。

労災事故による高次脳機能障害の場合、労災保険からどのような補償があるのでしょうか。また、会社に対して、損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

結論から先に言いますと、高次脳機能障害の場合、後遺障害と認定されますと、労災保険から、一時金若しくは年金が支給されます。また、場合によっては会社に対して損害賠償請求も可能です。

今回は、高次脳機能障害の労災認定と損害賠償請求についてわかりやすく解説します。

高次脳機能障害とは?

高次脳機能障害は、頭部への外傷や脳血管障害などで脳に損傷を受けた結果、記憶や注意力、言語能力などの認知機能が低下する障害です。特に記憶障害や注意障害、社会的行動のコントロール難などが代表的な症状として挙げられます。日常的なコミュニケーションや業務遂行にも支障が生じるため、本人だけでなく家族や職場への負担も大きくなりがちです。

具体的な症状としては、記憶障害注意障害、遂行機能障害といった認知障害,周囲の状況にあわせた適切な行動ができない,複数のことを同時に処理できない,行動を抑制できないといった社会的行動障害,自発性低下,衝動性,自己中心性などの人格変化などがあります。

こうした障害によって、物忘れが多くなったり,集中力を保つことが難しくなったり、最後まで仕事を終えるのが困難になるほか、他者との協調性が低下して集団生活をおくる上で様々な支障が生じてきます。

 

高次脳機能障害の特徴

高次脳機能障害は一見して障害があることが判別しにくく、本人の自覚症状が薄い場合や,いわゆる病識がない状態として全く症状について自覚がないこともあるため、「見過ごされやすい障害」などといわれることがあります。

そのため、高次脳機能障害による後遺症が残っていることを正確に認定してもらうには、他の後遺症と比べても、必要な検査を適切な時期に実施するなどして、一定の障害の状態にあることを立証する必要があり、労働者本人やその家族の取組みが大変重要になります。

特に、労働者本人に病識が無い場合には、ご家族が労災事故前と違うことに気づくことが重要になります。

 

労災事故による高次脳機能障害

高次脳機能障害を引き起こす、労災事故としては次の類型が挙げられます。

① 墜落・転落事故

頭部を強打し、脳外傷(外傷性脳損傷)により高次脳機能障害が生じるリスクがあります。

  • 高所作業中の転落(建設現場、足場作業など)

  • 梯子や脚立からの落下

  • 作業床・開口部からの墜落

② 交通事故(業務中・通勤中)

交通事故による衝撃で脳を損傷して、高次脳機能障害が生じるリスクがあります。

  • トラックや営業車などの運転中に発生した事故

  • 歩行中や自転車での通勤中の交通事故

③ 物の落下・飛来による頭部外傷

頭蓋骨骨折や脳挫傷により高次脳機能障害に進展するリスクがあります。

  • 建設現場などで工具や資材が頭に落下

  • 工場での機械部品の飛来

④ 酸欠・一酸化炭素中毒による脳への障害

脳が低酸素状態にさらされることで高次脳機能障害が生じるリスクがあります。

  • 狭い作業空間での酸欠事故(タンク・地下など)

  • 発電機や溶接作業での一酸化炭素中毒

⑤長時間労働によって脳血管疾患を発症

長時間労働によって睡眠不足となり、血管の修復が不十分になり、交感神経の継続的な緊張によって血圧が上がり、脳血管疾患を発症して、高次脳機能障害に進展するリスクがあります。

 

 

労災事故における高次脳機能障害の後遺障害

高次脳機能障害については、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目して、評価を行います。

高次脳機能障害は、脳の器質的病変に基づくものであることから、MRIやCT等の画像データによって、その存在が認められることが必要になります。

具体的な高次脳機能障害の後遺障害等級認定基準と判断方法は下記のとおりです。

 

(a)介護が必要かどうか、労働能力の喪失の程度

最初に、障害の程度が重い場合には、介護を要する状況かどうかを考えます。

1級か2級かについては、常時介護が必要かどうか、あるいは生活上必要に応じて介護が必要かどうかを判断します。

そのうえで、➀常時介護が必要であれば後遺障害等級1級、②随時介護が必要であれば後遺障害等級2級と認定されます。

ここで、高次脳機能障害における「介護」の必要性は、肉体的な介護だけでなく、当人に対する監視が必要かどうか、という観点からも判断されます。

つまり、一定の障害の状態にある労働者に対し、常時監視を要する危険な状態かどうか、その監視はどの程度必要か、という観点が介護の必要性の判断において大切になってきます。

また、後遺障害等級3級以下については、労働能力の喪失の程度が基準になります。

例えば、下記の図表のFに該当すれば、「高次脳機能障害のため労務に服することができないもの」として後遺障害等級3級と認定される可能性があります。

 

(b)高次脳機能障害整理表

介護が必要でないとされた場合でも、生活するうえでの能力にどれだけ支障が生じているかが次の問題となってきます。

具体的には、➀記銘・記憶力、認知力、言語力等の意思疎通能力,

②理解力や判断力等の問題解決能力,

③作業をするときに生じる負荷に対する持続力・持久力,

④協調性や対人能力等の社会行動能力、

の4つの能力について、下記の高次脳機能障害整理表にあてはめて、どの程度支障が生じているのかを判断します。

 

図表 高次脳機能障害整理表

 

障害の区分

高次脳機能障害

喪失の程度

意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)

問題解決能力(理解力、判断力等)

作業負荷に対する持続力・持久力

協調性や対人能力等の社会行動能力

A 多少の困難はあるが概ね自力でできる

(わずかに喪失)

(1)特に配慮してもらわなくても職場で他の人と意思疎通をほぼできる。

(2)必要に応じ、こちらから電話をかけることができ、かかってきた電話の内容をほぼ正確に伝えることができる。

(1)複雑でない手順であれば、理解して実行できる。

(2)抽象的でない作業であれば、1人で判断することができ,実行できる。

概ね8時間支障なく働ける。

障害に起因する不適切な行動はほとんど認められない。

B 困難ではあるが概ね自力でできる

(多少喪失)

(1)職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、ゆっくり話してもらう必要が時々ある。

(2)普段の会話はできるが、文法的な間違いをしたり、適切な言葉を使えないことがある。

AとCの中間

AとCの中間

AとCの中間

C 困難はあるが多少の援助があればできる

(相当程度喪失)

(1)職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解するためには、たまには繰り返してもらう必要がある。

(2)かかってきた電話の内容を伝えることはできるが、時々困難を生じる。

(1)手順を理解することに困難を生じることがあり、たまには助言を要する。

(2)1人で判断することに困難を生じることがあり、たまには助言を必要とする。

障害のために予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督がたまには必要であり、それなしには概ね8時間働けない。

障害に起因する不適切な行動がたまには認められる。

D 困難はあるがかなりの援助があればできる

(半分程度喪失)

(1)職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解するためには時々繰り返してもらう必要がある。

(2)かかってきた電話の内容を伝えることに困難を生じることが多い。

(3)単語を羅列することによって、自分の考え方を伝えることができる。

CとEの中間

CとEの中間

CとEの中間

E 困難が著しく大きい

(大部分喪失)

(1)実物を見せる、やってみせる、ジェスチャーで示すなどの、いろいろな手段と共に話しかければ、短い文や単語くらいは理解できる。

(2)ごく限られた単語を使ったり、誤りの多い話し方をしながらも、なんとか自分の欲求や望みだけは伝えられるが、聞き手が繰り返して尋ねたり、いろいろと推測する必要がある。

(1)手順を理解することは著しく困難であり、頻繁な助言がなければ対処できない。

(2)1人で判断することは著しく困難であり、頻繁な指示がなければ対処できない。

障害により予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督を頻繁に行っても半日程度しか働けない。

障害に起因する非常に不適切な行動が頻繁に認められる。

F できない

(全部喪失)

職場で他の人と意思疎通を図ることができない。

課題を与えられてもできない。

持続力に欠け,働くことができない。

社会性に欠け,働くことができない。

 

(c)後遺障害等級表

 そのうえで、(b)で評価・分類した結果を、下記の図表高次脳機能障害の認定基準にあてはめて、後遺障害等級を判断します。

 

図表 高次脳機能障害の認定基準

 

等級

障害の状況

1級

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、常に他人の介護を要するもの

以下の(a)又は(b)が該当する

(a)重篤な高次脳機能障害のため、食事、入浴、用便、更衣等に常時介護を要するもの

(b)高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの

2級

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの

以下の(a)、(b)又は(c)が該当する

(a)重篤な高次脳機能障害のため、食事、入浴、用便、更衣等に随時介護を要するもの

(b)高次脳機能障害によるの認知症,情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの

(c)重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの。

3級

生命維持に必要な身のまわりの処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため,労務に服することができないもの

以下の(a)又は(b)が該当する

(a)上記の高次脳機能障害整理表の4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの

(b)上記の高次脳機能障害整理表の4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの

5級

高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの

以下の(a)又は(b)が該当する

(a)上記の高次脳機能障害整理表の4能力のいずれか1つ以上の能力の大部分が失われているもの

(b)上記の高次脳機能障害整理表の4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの

7級

高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの

以下の(a)又は(b)が該当する

(a)上記の高次脳機能障害整理表の4能力のいずれか1つ以上の能力の半分程度が失われているもの

(b)上記の高次脳機能障害整理表の4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの

9級

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの

高次脳機能障害のため、上記の高次脳機能障害整理表の4能力のいずれか1つ以上の能力の相当程度が失われているものが該当する。

12級

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの

上記の高次脳機能障害整理表の4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているものが該当する。

14級

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの

MRI、CT等による他覚的所見が認められないものの、脳損傷があることが医学的に見て合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかに能力喪失が認められるものが該当する。

 

(d)日常生活における状況

(イ)「日常生活状況報告」 

 高次脳機能障害は、医師の診察や検査のみでは、普段の生活に支障をきたしている障害の状態を把握しづらいという特徴があります。

 そこで、労災の後遺障害等級認定の際には、日常生活状況報告という書面を家族に記入してもらうなどして、日常生活で起こっている障害の程度を検討する材料にしています。

 

(ロ)日常生活状況についての立証

 日常生活状況報告だけでは、労働者の障害の状態をすべて書き表せない場合があります。

そうした場合は、日常生活状況報告に加えて、けがや病気により一定の障害の状態にある労働者本人の日常生活状況を家族などが詳細に記した陳述書を出すことが有効になってきます。

 特に、可能であれば、➀等級認定時だけでなく,発症時からのけがや病気により一定の障害の状態にある労働者の日常生活状態を詳細に記した日記のような形式で記録したもの、②リハビリで通所している施設やリハビリテーションセンターなどの職員の証言や陳述、などといった証拠を労基署に提出することができれば、適切な後遺障害等級認定が得られる可能性が高まります。

 

労災保険からの補償

労災事故で高次脳機能障害すると、短期記憶の障害による物忘れの増加、集中力の散漫、自己制御能力の低下などが生じて、被災労動者や家族に重い負担が生じます。

労災事故によって高次脳機能障害が発生した場合、被災労働者や家族に重い負担が生じますので、労災事故による補償を必ず受けてください。

そのため、労災事故にまきこまれた場合には、必ず、労災申請をしてください。

ここからは、高次脳機能障害が労災と認定された場合の、労災保険からの補償について、解説します。

 

⑴ 療養補償給付

労災申請をして、労災保険を利用することができれば、労災事故によるけがの治療費が、全額、労災保険から支給されます。

すなわち、無料で治療を受けることができるのです。

労災保険からの治療費の補償のことを、療養補償給付といいます。

 

⑵ 休業補償給付

また、労災事故によるけがの治療のために、会社を休んだとしても、休業期間中、給料の約80%分が支給されます。

会社を休業しても、給料の約80%分が補償されますので、安心して治療に専念することができます。

労災保険からの休業に関する補償のことを、休業補償給付といいます。

 

⑶ 傷病補償給付

労災事故によるケガの治療を開始して、1年6ヶ月を経過しても、ケガが治癒しておらず、そのケガの障害の程度が重篤な場合、労災保険から年金が支給されます。

傷病等級1級から3級に該当する、重篤な傷病の場合に限って支給されます。

 

⑷ 障害補償給付

労災事故によるケガが、後遺障害と認定されれば、労災保険から、後遺障害の等級に応じた補償を受けることができます。

労災保険における、後遺障害に対する補償を、障害補償給付といいます。

障害補償給付の申請をする際には、労働基準監督署に対して、第10号の様式と、主治医に作成してもらった後遺障害の診断書を提出します。

障害補償給付として、年金若しくは一時金が支給されることで、今後の生活が一定程度安定します。

 

⑸ 介護補償給付

労災事故によって重篤な後遺障害が残った場合に受ける介護に対する給付を、介護補償給付といいます。

後遺障害等級で1級又は2級と認定され、常時又は随時の介護が必要な状態になっている場合に、支給を受けることができます。

 

⑹ 後遺障害5級の場合に障害補償給付としていくら支給されるのか

 ここで、後遺障害の第5級の1の2の「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」に該当した場合で、労災保険からいくらの補償が受けられるのかを検討してみます。

後遺障害5級の場合、障害補償給付として、①障害補償年金、②障害特別年金、③障害特別支援金が支給されます。

5級の場合、①障害補償年金は、給付基礎日額の184日分が支給されます。

給付基礎日額とは、労災事故が発生した日の直前3ヶ月間の賃金の総支給額を日割り計算したものです。

5級の場合、②障害特別年金は、算定基礎日額の184日分が支給されます。

算定基礎日額とは、労災事故が発生した日の直前1年間の賞与の金額を365日で割ってえられたものです。

5級の場合、③障害特別支援金は、225万円が支給されます。

具体的なケースで、5級の障害補償給付の金額を計算してみます。

毎月の給料が月額30万円、1年間の賞与が60万円の労働者が10月1日に労災事故にまきこまれてしまい、後遺障害5級と認定されたケースで、障害補償給付の金額を計算すると、次のとおりとなります。

①障害補償年金

まずは、直近3ヶ月間の給付基礎日額を計算します。

7月は31日、8月は31日、9月は30日なので、(30万円+30万円+30万円)÷(31日+31日+30日)=9,782.6

1円未満の端数は、1円に切り上げるので、給付基礎日額は、9,783円となります。

5級の場合、障害補償年金は、給付基礎日額の184日分が支給されますので、9,783円×184日=1,800,072円となります。

 

②障害特別年金

まずは、直近1年間の算定基礎日額を計算します。

1年間の賞与が60万円なので、365日で割ると、60万円÷365日=1,643.8となり、1円未満の端数は1円に切り上げるので、算定基礎日額は、1,644円となります。

5級の場合、障害特別年金は、算定基礎日額の184日分が支給されますので、1,644円×184日=302,496円となります。

 

③障害特別支援金

5級の場合の障害特別支援金は、225万円です。

以上まとめますと、①障害補償年金として、毎年、1,800,072円が支給され、②障害特別年金として、毎年、302,496円が支給され、③障害特別年金として、1回だけ、225万円が支給されるのです。

 

労災申請の手続

 労災保険を利用するためには、労災申請をしなければなりません。

 労災申請をする場合、ご自身で労働基準監督署へ行き手続をする方法と、会社において労災申請を代行してもらう方法の2種類があります。

 労災申請をする際に、厚生労働省の書式に必要事項を記載して、労働基準監督署へ提出します。

 労災申請の請求書を受理した労働基準監督署は、労災事故の状況、労動者の負傷の経緯等から、労動者のケガや病気が、仕事が原因といえるのかを調査します。

 労働基準監督署は、調査の結果、労働者のケガや病気が、仕事が原因であると判断した場合、労災と認定し、被災した労働者に対して、労災保険の支給決定を通知します。

 労働基準監督署から、被災した労働者のもとに、ハガキが届き、労災と認定されたか否か、いくらの支給を受けられるのかが分かります。

 労災保険の支給決定の通知と共に、労動者が、労災申請の請求書に記載した預金口座に、労災保険から、支給金が振り込まれます。

 

高次脳機能障害の損害賠償請求

ここからは、労災事故によって高次脳機能障害を発症した場合の会社に対する損害賠償請求について、解説します。

 

労災保険からの補償では足りない?

労災保険から補償を受けることができた後に、労災事故について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。

その理由は、労災保険では、労災事故によって被った労働者の損害は、全て補償されないからなのです。

労災保険からは、労災事故によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は、支給されません。

また、後遺障害による収入の減少に対応する、労災保険の障害補償給付では、労働者の将来の収入の減少という損害が、全てまかなわれるわけではありません。

このように、労災保険からは支給されない慰謝料や、労災保険からの補償では足りない、労働者の将来の収入の減少の損害について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。

それでは、どのような場合に、会社に対して、損害賠償請求ができるのでしょうか。

 

安全配慮義務違反とは?

結論としては、労災事故について、会社が安全対策を怠っていた場合、会社に対して、損害賠償請求ができる可能性があります。

すなわち、労災事故で、会社に対して、損害賠償請求をするためには、会社に、安全配慮義務違反が認められなければなりません。

安全配慮義務とは、労働者の生命・健康を危険から保護するように、会社が配慮する義務をいいます。

そして、会社が、労働安全衛生法令やガイドラインに違反していた場合、安全配慮義務違反が認められます。

例えば、高所からの転落や墜落の労災事故の場合、会社は、高さが2メートル以上の箇所で、労働者に作業をさせる場合、足場を組み立てる等の方法により作業床を設置するか、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具(いわゆる安全帯)を使用させなければなりません(労働安全衛生規則518条)。

この規定に違反して、会社が、防網を貼っておらず、労動者に安全帯を使用させていなかった場合、労働者は、会社に対して、労災保険からの補償では足りない損害について、損害賠償請求をすることができるのです。

 

後遺障害5級の場合にいくらの損害賠償請求ができるのか?

それでは、後遺障害の第5級の1の2の「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」に該当した場合、会社に対して、いくらくらいの損害賠償請求ができるのかを計算してみます。

先ほどと同じように、毎月の給料が月額30万円、1年間の賞与が60万円、年収420万円の40歳の労働者が、10月1日に労災事故にまきこまれてしまい、後遺障害5級と認定されたケースで、損害賠償請求の金額を計算してみます。

ここでは、労災事故の損害賠償請求で大きな金額になる、①休業損害、②逸失利益、③慰謝料を計算します。

 

①休業損害

まず、労災事故後に会社を休んでいた期間の休業損害を計算します。

休業損害は、収入日額に休業日数をかけて計算します。

収入日額は、労災事故前3ヶ月間の給料総額を期間の総日数で割って計算するので、労災保険の給付基礎日額の計算とほぼ同じです。

今回のケースの場合、収入日額は、7月は31日、8月は31日、9月は30日なので、(30万円+30万円+30万円)÷(31日+31日+30日)=9,783円

休業日数が330日であれば、休業損害は、9,783円×330日=3,228,390円となります。

もっとも、休業損害からは、労災保険から支給された休業補償給付を控除します。

休業補償給付は、給料の約80%が支給されますが、80%のうちの20%の休業特別支給金は控除されません。

そのため、休業損害から控除されるのは、給料の約60%分である休業補償給付だけです。

例えば、今回のケースで、給料の約60%分である休業補償給付として、1,937,034円が支給されていた場合、会社に対して請求できる休業損害は、3,228,390-1,937,034=1,291,356円となります。

 

②逸失利益

逸失利益とは、労災事故がなければ将来得られたであろう収入のことです。

逸失利益は、次の計算式で計算します。

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入とは、労災事故の前年の年収のことです。

労働能力喪失率は、後遺障害によって、労働者の労働能力がどれくらいの割合で喪失したかを算出するものです。

後遺障害5級の場合、労働能力喪失率は、79%です。

労働能力喪失期間は、後遺障害による労働能力が喪失された期間のことで、原則として、67歳から症状固定時の年齢を差し引いて計算します。

今回のケースの場合、40歳で症状固定なので、労働能力喪失期間は、27年間となります。

ライプニッツ係数とは、労災事故などの損害賠償金に生じる中間利息を控除するための係数です。

逸失利益の損害賠償請求では、将来にわたる損害賠償金を一度に受け取ることなります。

その損害賠償金を運用すると利息が生じるので、この利息分を控除するために、ライプニッツ係数を使用します。

27年に対応するライプニッツ係数は、18.3270です。

今回のケースで逸失利益を計算すると、次のとおりとなります。

420万円×79%×18.3270=60,808,986円

この逸失利益の金額から、障害補償給付のうち、これまでに受給した障害補償年金を控除します。

障害補償給付のうち、障害特別年金と障害特別支援金は控除されません。

今回のケースで、これまでに受給した障害補償年金が1年間分の1,800,072円とした場合、会社に対して請求できる逸失利益は、60,808,986-1,800,072=59,008,914円となります。

 

③慰謝料

労災事故の損害賠償で請求できる慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の2つがあります。

入通院慰謝料については、入院の月数と通院の月数から計算します。

例えば、入院2ヶ月、通院8ヶ月の場合、入通院慰謝料は、164万円になります。

後遺障害慰謝料については、後遺障害の等級に応じて金額が決まります。

後遺障害5級の場合、後遺障害慰謝料は、1400万円になります。

 

このように、労災保険では補償されない損害について、会社に対して、損害賠償請求できないかを検討します。

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