化学物質を吸引した労災事故で、会社と交渉して、200万円の解決金を得た事例

事故内容

 クライアント(30代女性)は、食品会社の品質管理室において、希釈液を製造する仕事をしていた際に、指導者から誤った指示を受け、その誤った指示に従って作業をしたところ、ビーカーが発熱し、煙があがり、その煙を吸引してしまいました。

 

 

 化学物質を吸引したことから、クライアントは、咳や呼吸困難の症状を発症し、病院で入院しました。

 クライアントは、今回の労災事故によって、一日中激しく咳き込み、自力で息が吸えなくなるくらいの呼吸困難の症状に苦しみながら、呼吸器の治療をしていたところ、呼吸器の症状の苦しさや、会社の対応の不誠実さから、抑うつ状態となり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症しました。

 クライアントは、呼吸器疾患と精神疾患の治療を続け、労災事故から約1年後に症状が固定しました。

 クライアントは、呼吸器疾患と精神疾患について、労災保険の障害補償給付の申請をしましたが、残念ながら、後遺障害とは認定されず、非該当との結果となりました。

依頼の経緯

 クライアントは、会社から、労災事故の発生後に、誠意ある対応をしてもらえなかったことについて、強い憤りを抱いており、会社に対して、損害賠償請求をすることを希望していました。

 ご依頼をいただいた時点では、労災保険において、後遺障害は非該当という結果がでていましたので、クライアントに、労働局で、個人情報の開示請求をしてもらい、労災の記録を入手してもらいました。

 労災の記録を検討し、クライアントの呼吸器の主治医と面談したところ、呼吸器疾患で後遺障害の認定をとることは難しく、また、精神疾患の非該当を争うことも難しいことがわかりました。

 そこで、クライアントと協議し、労災の後遺障害は、非該当を前提に、会社に対して、労災保険から支給されなかった精神科の治療費、休業損害、慰謝料等の損害賠償請求をすることにしました。

弁護活動

 会社は、労働者が生命と身体の安全を確保しつつ、労働することができるように、必要な配慮をするという、安全配慮義務を負っています。

 今回の労災事故において、会社は、次の安全配慮義務に違反していたという主張をしました。

 ①会社は、労働者に対して、人体に有害な作用を及ぼす物質を使用させるときには、安全データシートという文書を掲示するなどして、周知しなければならないところ、本件労災事故よりも前に、本件労災事故の有害物質についての安全データシートを所持しておらず、クライアントに交付せず、周知してないかったこと(労働安全衛生法57条の2第1項、同法101条第4項、化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針3条、5条3項違反)。

 ②会社は、クライアントに対して、マスクなどの呼吸器保護具、眼の保護メガネ、保護手袋を着用させなかったこと(労働安全衛生法57条の3第2項違反)。

 

 

 ③会社は、クライアントに対して、、本件労災事故発生後すぐに医師に連絡するなどの応急処置を実施しなかったこと(労働安全衛生法57条の3第2項違反)。

 ④会社は、クライアントに対して、雇入時に、会社で取り扱う原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関して、安全衛生教育を実施しなかったこと(労働安全衛生法59条1項、労働安全衛生規則35条、化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針5条3項違反)。

 以上の安全配慮義務違反を主張して、会社と損害賠償請求の交渉をしました。

結果

 会社の代理人弁護士は、会社に、一定の安全配慮義務違反があることを認めたことから、会社から、クライアントに対して、いくらの損害賠償金を支払ってもらえるかが、争点となりました。

 今回の事件では、精神疾患について労災とは認められておらず、クライアントが、労災事故によって、精神疾患を発症したことを証明するのに、ハードルが高かったという事情がありました。

 また、クライアントも、労災事故の紛争の解決を長引かせたくないという要望をお持ちでしたので、会社との間で、譲歩できる点はないかを探り、交渉しました。

 結果として、会社からは、200万円の解決金を支払ってもらうことで、示談が成立しました。

 労災とは認定されませんでしたが、会社に対して、損害賠償請求の交渉をした結果として、200万円の解決金が支払われることとなり、クライアントは、ご自身の言い分が会社に認められたとして、満足されました。

 今回の事件のように、労災とは認定されなくても、会社に対して、安全配慮義務違反を理由に、損害賠償請求が認められる場合がありまえます。

 労災事故にあわれて、会社に対して損害賠償請求するためには、弁護士にご相談することをおすすめします。

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