アスベストの労災申請が時効になった場合は特別遺族給付金を申請する【弁護士が解説】

 過去に建設業で働いていた父親が、肺がんで死亡しました。

 

 父親が死亡して5年が経過した後に、父親が過去に、仕事でアスベストを取り扱っていたことを知り、労災申請をしましたが、労働基準監督署から、5年の時効になっていると言われました。

 

 アスベストの労災申請が時効にかかってしまった場合、他に救済手段はないのでしょうか。

 

 結論から先にいいますと、特別遺族給付金の申請をするべきです。

 

 今回は、アスベストの特別遺族給付金について、わかりやすく解説していきます。

 

 

1 アスベストの特別遺族給付金とは

 

 アスベストによる健康被害については、アスベストへの暴露から30~40年という非常に長い潜伏期間を経て発症すること、発症から1,2年で死亡に至るケースもあること、アスベストと疾病との関連性に本人も医師も気づきにくいこと等の特殊性があります。

 

 この特殊性により、仕事でアスベストに暴露しており、アスベストが原因で、肺がん等の病気を発症して死亡したとても、アスベストが原因の死亡であることに気付かないまま、時間が経過してしまうことがありえます。

 

 労災保険の遺族補償給付の支給を受ける権利は、5年の時効で消滅してしまうので、死亡から5年が経過した場合、労災保険の遺族補償給付を受給できません。

 

 そこで、このようなアスベストの特殊性に鑑み、アスベストによる健康被害を受けた者やそのご遺族に対して、各種の給付を支給することにより、アスベストによる健康被害の迅速な救済を図るために、「石綿による健康被害の救済に関する法律」が制定され、労災保険の遺族補償給付の支給を受ける権利が時効によって消滅した方に対して、遺族特別給付金が支給されることになったのです。

 

2 遺族特別給付金の要件

 

 「石綿による健康被害の救済に関する法律」の遺族特別給付金を受給できる対象者は、次の方です。

 

 すなわち、労動者又は労災保険の特別加入者であって、石綿にさらされる業務に従事することにより、指定疾病等にかかり、これにより死亡した方のご遺族であって、時効により労災保険法に基づく遺族補償給付の支給を受ける権利が消滅した方です。

 

 労災保険の特別加入とは、一人親方や中小企業の事業主等、労動者にあたらない者が、一定の要件のもとに労災保険に特別に加入することをいいます。

 

⑴ 石綿暴露作業

 

 石綿にさらされる業務とは、具体的には、次の業務が挙げられます。

 

 
 ①石綿鉱山またはその附属施設において行う石綿を含有する鉱石または岩石の採掘、搬出または粉砕その他石綿の精製に関連する作業

 

 ②倉庫内などにおける石綿原料などの袋詰めまたは運搬作業

 

 ③次のアからオまでに掲げる石綿製品の製造工程における作業
 ア 石綿糸、石綿布等の石綿紡織製品
 イ 石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート、石綿高圧管、石綿円筒等のセメント製品
 ウ ボイラーの被覆、船舶用隔壁のライニング、内燃機関のジョイントシーリング、ガスケット(パッキング)等に用いられる耐熱性石綿製品
 エ 自動車、巻上機等のブレーキライニング等の耐摩耗性石綿製品
 オ 電気絶縁性、保温性、耐酸性等の性質を有する石綿紙、石綿フェルト等の石綿製品(電線絶縁紙、保温材、耐酸建材等に用いられている)又は電解隔膜、タイル、プラスター等の充填剤、塗料等の石綿を含有する製品

 

 ④石綿の吹付け作業

 

 ⑤耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱もしくは保温のための被覆またはその補修作業

 

 ⑥石綿製品の切断などの加工作業

 

 ⑦石綿製品が被覆材または建材として用いられている建物、その附属施設などの補修または解体作業

 

 ⑧石綿製品が用いられている船舶または車両の補修または解体作業

 

 ⑨石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)など)などの取り扱い作業

 

 ⑩①から⑨までにかかげるもののほか、これら作業と同程度以上に石綿粉塵の暴露を受ける作業

 

 ⑪①から⑩までの作業の周辺等において、間接的な暴露を受ける作業

 

⑵ 指定疾病

 

 指定疾病とは、中皮腫、肺がん、石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿肺胸水です。

 

① 中皮腫

 

 中皮腫は、肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜などにできる悪性の腫瘍です。

 

 中皮腫のアスベスト関連性は、非常に高く、そのほとんどがアスベストに起因するものと考えられています。

 

 初めてのアスベストの暴露から、発症までの期間は、一般に40~50年ほどであり、非常に長いです。

 

 中皮腫の症状としては、息切れ、お腹や胸の痛み、咳、発熱、全身倦怠感、体重減少等があります。

 

② 肺がん

 

 肺がんは、気管支あるいは肺胞を覆う上皮に発生する悪性の腫瘍です。

 

 初めてのアスベストの暴露から、発症までの期間は、一般に30~40年程度と長くなっています。

 

 肺がんの症状としては、咳、痰、血痰といったものがよくみられます。

 

③ 石綿肺

 

 石綿肺は、アスベストを大量に吸入することにより、肺が線維化する、じん肺という病気の1つです。

 

 肺の線維化が進行していき、酸素と炭酸ガスの交換を行う機能が損なわれるため、呼吸困難が生じます。

 

 初めてのアスベストの暴露から、発症までの期間は、15~20年が多いです。

 

 石綿肺の初期の症状としては、労作時の息切れ、咳、痰が多くみられます。

 

 アスベストの暴露が中止しても、肺の線維化は徐々に進行し、肺活量の低下も進み、日常生活に支障が生じます。

 

④ びまん性胸膜肥厚

 

 びまん性胸膜肥厚は、臓側胸膜の慢性線維性胸膜炎の状態であり、通常は壁側胸膜にも病変が及んで両者が癒着していることがほとんどです。

 

 初めてのアスベストの暴露から、発症までの期間は、30~40年が多いです。

 

 症状としては、呼吸困難、反復性の胸痛、反復性の呼吸器感染等がみられます。

 

⑤ 良性石綿胸水

 

 良性石綿胸水とは、アスベスト粉じんを吸入することによって、胸腔内に胸膜炎による胸水が生じることです。

 

 良性とは、悪性腫瘍ではないという意味であって、症状や予後が良好であることを意味しません。

 

 初めてのアスベストの暴露から、発症までの期間は、平均40年です。

 

 症状としては、労作時の息切れ、呼吸困難、胸痛、咳などがあります。

 

3 特別遺族給付金の内容

 

 特別遺族給付金には、特別遺族年金と特別遺族一時金の2種類があります。

 

⑴ 特別遺族年金

 

①受給者

 

 配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であって、次の要件にいずれも該当する方です。

 

 Ⅰ 死亡労動者の死亡の当時、その収入によって生計を維持していたこと。

 

 生計を維持していたとは、主として死亡労動者の収入によって生計を維持されていることまでは必要ではなく、死亡労動者の収入によって、生計の一部を維持していれば足り、いわゆる共稼ぎの場合も含まれます。

 

 Ⅱ 妻以外の方については、死亡労動者の死亡の当時において、次のイからニまでに該当すること

 

 イ 夫、父母又は祖父母については、55歳以上であること

 

 ロ 子又は孫については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあること

 

 ハ 兄弟姉妹については、18歳に18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあること、又は、55歳以上であること

 

 ニ イからハまでの要件に該当しない夫、子、父母、祖父母又は兄弟姉妹については、労災保険の障害等級第5級以上の身体障害の状態にあること

 

 年金を受けるべき者の順位は、配偶者→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹となります。

 

 ②支給額

 

 特別遺族年金の支給額は、ご遺族の人数に応じて次のとおりです。

 

 ご遺族が1人の場合 年240万円

 

 ご遺族が2人の場合 年270万円

 

 
 ご遺族が3人の場合 年300万円

 

 ご遺族が4人の場合 年330万円

 

⑵ 特別遺族一時金

 

 特別遺族年金の受給権者がいない場合、次のご遺族の方に、特別遺族一時金が支給されます。

 

 イ 配偶者

 

 ロ 死亡労動者の死亡の当時、その収入によって生計を維持していた子、父母、孫及び祖父母

 

 ハ イ・ロに該当しない子、父母、孫及び祖父母並びに兄弟姉妹

 

 ② 支給額

 

 イの場合 1200万円

 

 ロの場合 1200万円からすでに支給された特別遺族年金の合計額を差し引いた差額

 

4 特別遺族給付金の請求期限

 

 この原稿の執筆時点である令和7年3月時点において、特別遺族給付金の支給対象は、令和8年3月26日までに亡くなった労動者のご遺族の方で、請求期限は、令和14年3月27日までとなっています。

 

 今後の法改正によって、支給対象者や請求期限が変わる可能性はありますが、請求期限が定まっていますので、なるべく早く、特別遺族給付金の請求をするべきです。

 

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