労災で後遺障害10級と認定された時、もらえる金額はいくら?【弁護士が解説】
1 後遺障害10級における労災保険からの補償
労災事故にまきこまれて、けがを負いました。
けがの治療を続けましたが、主治医からは、後遺障害が残るかもしれないと言われました。
労災事故によるけがで、後遺障害が残った場合、いくらくらいの金額をもらえるのでしょうか。
結論を先に言いますと、労災保険から障害補償給付を受給でき、労災保険からの補償では足りない分については、会社に対して、損害賠償請求を検討します。
今回の記事では、労災で後遺障害10級と認定された場合、いくらくらいの金額がもらえるのかについて、具体例を用いて解説します。
まず、労災事故にまきこまれて、けがをした場合、必ず、労災申請をしてください。
労災保険を利用することができれば、労災事故によるけがの治療費が、全額、労災保険から支給されます。
また、労災事故によるけがの治療のために、会社を休んだとしても、休業期間中、給料の約80%分が支給されます。
そして、労災事故によって後遺障害が残ったとしても、後遺障害と認定されれば、労災保険から、後遺障害の等級に応じた補償を受けることができます。
労災保険における、後遺障害に対する補償を、障害補償給付といいます。
障害補償給付の申請をする際には、労働基準監督署に対して、第10号の様式と、主治医に作成してもらった後遺障害の診断書を提出します。
後遺障害10級の場合、障害補償給付として、①障害補償一時金、②障害特別一時金、③障害特別支援金が支給されます。
10級の場合、①障害補償一時金は、給付基礎日額の302日分が支給されます。
給付基礎日額とは、労災事故が発生した日の直前3ヶ月間の賃金の総支給額を日割り計算したものです。
10級の場合、②障害特別一時金は、算定基礎日額の302日分が支給されます。
算定基礎日額とは、労災事故が発生した日の直前1年間の賞与の金額を365日で割ってえられたものです。
10級の場合、③障害特別支援金は、39万円が支給されます。
具体的なケースで、10級の障害補償給付の金額を計算してみます。
毎月の給料が月額30万円、1年間の賞与が60万円の労働者が10月1日に労災事故にまきこまれてしまい、後遺障害10級と認定されたケースで、障害補償給付の金額を計算すると、次のとおりとなります。
①障害補償一時金
まずは、直近3ヶ月間の給付基礎日額を計算します。
7月は31日、8月は31日、9月は30日なので、(30万円+30万円+30万円)÷(31日+31日+30日)=9,782.6
1円未満の端数は、1円に切り上げるので、給付基礎日額は、9,783円となります。
10級の場合、障害補償一時金は、給付基礎日額の302日分が支給されますので、9,783円×302日=2,954,466円となります。
②障害特別一時金
まずは、直近1年間の算定基礎日額を計算します。
1年間の賞与が60万円なので、365日で割ると、60万円÷365日=1,643.8となり、1円未満の端数は1円に切り上げるので、算定基礎日額は、1,644円となります。
10級の場合、障害特別一時金は、算定基礎日額の302日分が支給されますので、1,644円×302日=496,488円となります。
③障害特別支援金
10級の場合の障害特別支援金は、39万円です。
以上を合計すると、2,954,466円(①障害補償一時金)+496,488円(②障害特別一時金)+39万円(③障害特別支援金)=3,840,954円となります。
2 10級とはどのような障害が該当するのか
労災保険において、10級の後遺障害と認定されるのは、次の場合です。
10級1号 一眼の視力が0.1以下になったもの
10級1号の2 正面視で複視を残すもの
複視とは、右眼と左眼の網膜の対応点に外界の像が結像せずにずれているために、ものが二重にみえる状態をいいます。
10級2号 そしゃく又は言語の機能に障害を残すもの
そしゃく機能に障害を残すものとは、固形食物(たくあん、らっきょう、ピーナッツ等)の中にそしゃくできないものがあること又はそしゃくが十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できる場合をいいます。
言語の機能に障害を残すものとは、4種の語音(口唇音、歯舌音、口蓋音、喉頭音)のち、3種以上の発音不能のものをいいます。
10級3号 十四歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
歯科補てつを加えたものとは、現実に喪失又は著しく欠損した歯牙に対する補てつをいいます。
10級3号の2 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のものをいいます。
10級4号 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
一耳の平均純音聴力レベルが80dB以上90dB未満のものをいいます。
10級5号 削除
10級6号 一手の母指又は母指以外の二の手指の用を廃したもの
手指の用を廃したものとは、手指の末節骨の半分以上を失い、又は、中手指節関節若しくは近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいいます。
10級7号 一下肢を3センチメートル以上短縮したもの
10級8号 一足の第一の足指又は他の四の足指を失ったもの
10級9号 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
10級10号 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
関節の機能に著しい障害を残すものとは、①関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの、若しくは、②人口関節・人口頭骨を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されている以外のものをいいます。
このように、後遺障害10級は、障害の程度がある程度重く、仕事や日常生活に少なからず影響を与えるものが該当します。
3 会社に対する損害賠償請求
労災保険から補償を受けることができた後に、労災事故について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。
その理由は、労災保険では、労災事故によって被った労働者の損害は、全て補償されないからなのです。
労災保険からは、労災事故によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は、支給されません。
また、後遺障害による収入の減少に対応する、労災保険の障害補償給付では、労働者の将来の収入の減少という損害が、全てまかなわれるわけではありません。
このように、労災保険からは支給されない慰謝料や、労災保険からの補償では足りない、労働者の将来の収入の減少の損害について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。
それでは、どのような場合に、会社に対して、損害賠償請求ができるのでしょうか。
結論としては、労災事故について、会社が安全対策を怠っていた場合、会社に対して、損害賠償請求ができる可能性があります。
すなわち、労災事故で、会社に対して、損害賠償請求をするためには、会社に、安全配慮義務違反が認められなければなりません。
安全配慮義務とは、労働者の生命・健康を危険から保護するように、会社が配慮する義務をいいます。
そして、会社が、労働安全衛生法令やガイドラインに違反していた場合、安全配慮義務違反が認められます。
例えば、機械に安全装置が設置されていなかったり、労働者に対して保護具を使用させていなかったり、十分な安全教育が実施されていない場合に、安全配慮義務違反が認められることがあります。
そのため、労災事故が発生した会社に、労働安全衛生法令やガイドラインに違反していなかったについて、検討します。
その結果、会社に労働安全衛生法令やガイドラインの違反が認められた場合、安全配慮義務違反があったとして、会社に対して、損害賠償請求をします。
それでは、後遺障害10級の場合、会社に対して、いくらくらいの損害賠償請求ができるのかを計算してみます。
先ほどと同じように、毎月の給料が月額30万円、1年間の賞与が60万円、年収420万円の40歳の労働者が、10月1日に労災事故にまきこまれてしまい、後遺障害10級と認定されたケースで、損害賠償請求の金額を計算してみます。
ここでは、労災事故の損害賠償請求で大きな金額になる、①休業損害、②逸失利益、③慰謝料を計算します。
①休業損害
まず、労災事故後に会社を休んでいた期間の休業損害を計算します。
休業損害は、収入日額に休業日数をかけて計算します。
収入日額は、労災事故前3ヶ月間の給料総額を期間の総日数で割って計算するので、労災保険の給付基礎日額の計算とほぼ同じです。
今回のケースの場合、収入日額は、7月は31日、8月は31日、9月は30日なので、(30万円+30万円+30万円)÷(31日+31日+30日)=9,783円
休業日数が90日であれば、休業損害は、9,783円×90日=880,470円となります。
もっとも、休業損害からは、労災保険から支給された休業補償給付を控除します。
休業補償給付は、給料の約80%が支給されますが、80%のうちの20%の休業特別支給金は控除されません。
そのため、休業損害から控除されるのは、給料の約60%分である休業補償給付だけです。
例えば、今回のケースで、給料の約60%分である休業補償給付として、498,933円が支給されていた場合、会社に対して請求できる休業損害は、880,470-498,933=381,537円となります。
②逸失利益
逸失利益とは、労災事故がなければ将来得られたであろう収入のことです。
逸失利益は、次の計算式で計算します。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
基礎収入とは、労災事故の前年の年収のことです。
労働能力喪失率は、後遺障害によって、労働者の労働能力がどれくらいの割合で喪失したかを算出するものです。
後遺障害10級の場合、労働能力喪失率は、27%です。
労働能力喪失期間は、後遺障害による労働能力が喪失された期間のことで、原則として、67歳から症状固定時の年齢を差し引いて計算します。
今回のケースの場合、40歳で症状固定なので、労働能力喪失期間は、27年間となります。
ライプニッツ係数とは、労災事故などの損害賠償金に生じる中間利息を控除するための係数です。
逸失利益の損害賠償請求では、将来にわたる損害賠償金を一度に受け取ることなります。
その損害賠償金を運用すると利息が生じるので、この利息分を控除するために、ライプニッツ係数を使用します。
27年に対応するライプニッツ係数は、18.3270です。
今回のケースで逸失利益を計算すると、次のとおりとなります。
420万円×27%×18.3270=20,782,818円
この逸失利益の金額から、障害補償給付のうち、障害補償一時金を控除します。
障害補償給付のうち、障害特別一時金と障害特別支援金は控除されません。
今回のケースでは、障害補償一時金が2,954,466円なので、会社に対して請求できる逸失利益は、20,782,818-2,954,466=17,828,352円となります。
③慰謝料
労災事故の損害賠償で請求できる慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の2つがあります。
入通院慰謝料については、入院の月数と通院の月数から計算します。
例えば、入院2ヶ月、通院3ヶ月の場合、入通院慰謝料は、154万円になります。
後遺障害慰謝料については、後遺障害の等級に応じて金額が決まります。
後遺障害10級の場合、後遺障害慰謝料は、550万円になります。
このように、労災保険では補償されない損害について、会社に対して、損害賠償請求できないかを検討します。
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