過労死の労災認定基準の改正
1 過労死の労災認定基準が改正されました
令和3年9月14日、厚生労働省は、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」という通達を公表し、従前の脳・心臓疾患の労災認定基準、いわゆる、過労死の労災認定基準が改正されました。
今回の記事では、改正された、過労死の労災認定基準について、わかりやすく解説します。
2 過労死の労災認定基準とは
従前、厚生労働省は、過労死の労災認定基準として、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」を策定し、労働基準監督署は、この労災認定基準に基づいて、脳・心臓疾患に関する労災申請について、労災認定の可否を決定していました。
この労災認定基準では、「長期間の過重業務」が認められ、対象疾病を発症すれば、労災と認定されると記載されています。
長い期間、長時間労働をしていると、疲労が蓄積し、脳や心臓の血管にダメージが積み重なり、脳・心臓疾患を発症してしまいます。
この「長期間の過重業務」は、具体的に、次の場合に認められます。
①発症前の1ヶ月間に、おおむね月100時間を超える時間外労働に従事した場合
②発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、おおむね月80時間を超える時間外労働に従事した場合
ここでいう時間外労働とは、1週間あたり40時間を超える労働時間のことをいいます。
この1ヶ月間80時間から100時間の時間外労働を、いわゆる「過労死ライン」といいます。
この「過労死ライン」について、今回の改正では、変更されませんでした。
3 改正のポイント
では、今回、過労死の労災認定基準は、どのような点が改正されたのでしょうか。
今回の改正のポイントは、時間外労働が過労死ラインに到達していなくても、労働時間以外の負荷要因が認められる場合には、総合的に考慮して、過労死と認定されることがあるという点です。
改正前の労災認定基準では、1ヶ月間の時間外労働が70時間の場合、労災認定されませんでしたが、改正後の労災認定基準では、1ヶ月間の時間外労働が70時間であっても、これから説明する、労働時間以外の負荷要因を考慮することで、労災認定されることがあるのです。
そして、労働時間以外の負荷要因として、以下のものが挙げられています。
①拘束時間の長い勤務
拘束時間とは、労働時間、休憩時間その他の使用者に拘束されている時間をいいます。
拘束時間の長い勤務については、拘束時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合)、休憩時間等を検討して、評価します。
②休日のない連続勤務
休日のない連続勤務については、連続労働日数、休日等を検討し、評価します。
③勤務間インターバルが短い勤務
勤務間インターバルとは、仕事の終業から、次の仕事の始業までの時間をいいます。
勤務間インターバルについては、おおむね11時間未満か否かが、ポイントとなります。
④不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
不規則な勤務とは、予定された始業・終業時刻が変更される勤務をいい、交替制勤務とは、予定された始業・終業時刻が日や週等によって異なる勤務をいい、深夜勤務とは、予定された始業または終業時刻が相当程度深夜時間帯に及び、夜間に十分な睡眠を取ることが困難な勤務をいいます。
⑤出張の多い業務
出張の頻度や、出張が連続する程度等を検討し、評価します。
⑥その他事業場外における移動を伴う業務
長距離トラックの運転手や、航空機の客室乗務員等、通常の勤務として事業場外における移動を伴う業務のことをいいます。
⑦心理的負荷を伴う業務
精神障害の労災認定基準である、「心理的負荷による精神障害の認定基準」が定める「業務による心理的負荷表」を参考にした、日常的に心理的負荷を伴う業務、または、心理的負荷を伴う具体的出来事、があるかを検討します。
例えば、退職を強要されたや、上司から、身体的攻撃や精神的攻撃といったパワーハラスメントを受けた、といった出来事があったかを検討します。
⑧身体的負荷を伴う業務
重量物の運搬作業や、人力での掘削作業といった、身体的負荷が大きい作業をしていたかについて検討します。
4 過労死で労災認定される可能性が高くなる
今回の過労死の労災認定基準の改正によって、以前は、時間外労働が1ヶ月間80時間から100時間の過労死ラインに到達していなくて、労災と認定されなかったケースであっても、時間外労働が1ヶ月間70時間くらいであれば、上記の労働時間以外の負荷要因を総合考慮して、労災と認定される可能性があります。
そのため、労働者にとって、救済の範囲が広がったと評価できます。
今後は、時間外労働が1ヶ月間80時間から100時間の過労死ラインに到達していなくても、労災申請をあきらめずに、労働時間以外の負荷要因があるかを検討することが重要になります。
過労死の労災申請は、専門的知識が必要であり、労災と認定される確率は、それほど多くなく、狭き門となっていますので、過労死の労災申請をする場合には、労災分野を専門に取り扱っている弁護士に、相談することをおすすめします。
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