食品加工用機械で指を切断した労災事故について会社に対して損害賠償請求できるのか?【弁護士が解説】
Q 食品を加工する工場で、食品加工用機械を操作していたところ、食品加工用機械で指を切断してしまいました。この場合、会社に対して、損害賠償請求をすることができるのでしょうか。
A 食品加工用機械の刃物の部分に、手が入ることを防止するための安全ガードや、刃物の回転を停止するための自動停止措置が備え付けられていなかった場合には、会社に対する損害賠償請求が認められる可能性があります。
1 食品加工用機械の労災事故
食品加工用機械による労災事故は、毎年2,000件を超え、多数の労災事故が発生しております。
厚生労働省において、「食品加工用機械の労働災害防止対策ガイドライン」が策定されており、次のことが記載されています。
①食品加工用機械の危険部分には、覆い、蓋、囲い等危険部分に労働者が接触しないように隔離、保護するための、安全ガードを設ける等の安全措置をとること。
②衣類や身体が食品加工用機械に巻き込まれたときに、直ちに機械を停止させることができる、非常停止装置がついていること。
このように、会社が、食品加工用機械について、安全ガードを設置していなかったり、非常停止装置をつけていなかったために、食品加工用機械に労働者の身体が巻き込まれて、労働者が負傷した場合、会社に対して、損害賠償請求ができる場合があります。
今回は、食品加工用機械の労災事故で、1127万円の損害賠償請求が認められた裁判例を紹介します。
横浜地裁令和3年3月26日判決・判例時報2517号61頁の事件です。
この事件では、食品加工用機械を使用した精肉業務をしていたところ、食品加工用機械の点検口カバーが外れて、点検口から食肉が落下したため、労働者が、食肉を戻そうとして、点検口に手を差し入れてしまい、回転刃で指を切断してしまいました。
この労働者は、指を切断したことで、指を動かした時に痛みやしびれが生じ、手で物をうまくつかめないという後遺障害が残り、10級の6の認定を受けました。
そして、この労働者は、会社に対して、今回の労災事故について、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をしました。
2 安全配慮義務
ここで、安全配慮義務について解説します。
会社は、労働者に対して、賃金を支払い、労働者は、会社に対して、労務を提供します。
会社は、労働者から、労務提供を受けるに当たり、労働者を指揮監督し、労働環境を用意、準備することになります。
会社の指揮監督のあり方や労働環境の準備に問題があれば、労働者の生命・健康に重大な影響が生じる可能性があります。
そのため、会社は、労働者の生命・健康を危険から保護するように配慮する義務を負っています。
会社がこの安全配慮義務に違反した場合に、労働者は、会社に対して、損害賠償請求ができるのです。
この事件では、食品加工用機械に、点検口から手が入らないようにする安全ガードや、何らかの不具合が発生した場合に、回転刃を自動停止させる自動停止装置は備わっていませんでした。
そして、この工場では、食品加工用機械の点検口カバーがはずれて、食肉が点検口から押し出される事態が頻繁に発生していました。
そのため、非熟練労働者を、安全ガードや自動停止装置を備えていない、食品加工用機械を使用する業務に従事させた点において、会社に対する、安全配慮義務違反が認められました。
また、この工場では、高い頻度で点検口カバーが外れることについて、十分な説明をしておらず、十分な安全衛生教育をしていない点においても、会社に対する、安全配慮義務違反が認められました。
3 過失相殺
この事件では、指を切断した労働者の過失も認定されました。
すなわち、労働者は、食品加工用機械が稼働中に不用意に手を入れれば、負傷することは認識していたのであり、労働者にも一定の落ち度があると認定されました。
このように、労災事故の発生に、労働者の落ち度が関わっている場合、労働者の落ち度の割合に応じて、損害賠償の金額が減額されてしまいます。
この事件では、労働者の過失が2割と認定され、最終的に、1127万円の損害賠償請求が認められました。
このように、食品加工用機械の労災事故では、会社が、食品加工用機械に、安全ガードや非常停止装置を設置していなかった場合、安全配慮義務違反が認められて、会社に対する損害賠償請求が認められる場合があります。
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