労災事故による手指の骨折で後遺障害が残った場合に受けられる補償とは?【弁護士が解説】
工場において、スチール製の材料を機械で曲げる作業をしていたところ、右の手指が機械の金型に挟まれてしまい、右の手指を骨折してしまいました。
この労災事故の後、右の手指の骨折の治療をしていましたが、指の関節がうまく曲がらず、痛みが消えません。
医師からは、後遺障害が残るかもしれないと言われました。
労災事故による手指の骨折の場合、労災保険からどのような補償があるのでしょうか。
結論から先にいいますと、手指の骨折の場合、関節が動きづらくなったことについての後遺障害、又は、痛みや痺れについての後遺障害が認定された場合、労災保険から、一時金若しくは年金が支給されます。
今回は、労災事故における手指の骨折の後遺障害について、わかりやすく解説していきます。
1 労災事故における手指の骨折の後遺障害
労災事故における手指の骨折の後遺障害は、2種類あります。
1つは、手指の関節が動きづらくなった場合の機能障害です。
もう1つは、痛みや痺れといった神経障害です。
⑴ 機能障害
手指の機能障害とは、手指の関節の動きが悪くなった後遺障害のことをいいます。
手指の機能障害については、次の通り、4級から14級までの後遺障害等級があります。
等級 |
認定基準 |
4級6号 |
両手の手指の全部の用を廃したもの |
7級7号 |
1手の5の手指又は母指を含み4の手指の用を廃したもの |
8級4 号 |
1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指の用を廃したもの |
9級9号 |
1手の母指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの |
10級6号 |
1手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの |
12級9号 |
1手の示指、中指又は環指の用を廃したもの |
13級4号 |
1手の小指の用を廃したもの |
14級7号 |
1手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
「手指の用を廃したもの」とは、手指の末節骨の半分以上を失い、又は、中手指節関節若しくは近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいいます。
具体的には、次の4つの場合が該当します。
①手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
②中手指節関節又は近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されるもの
③母指については、橈側外転又は掌側外転のいずれかが健側の1/2以下に制限されているもの
④手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚が関税に脱失したもの
④については、医学的に当該部位を支配する感覚神経が断裂し得ると判断される外傷を負った事実を確認するとともに、筋電計を用いた感覚神経伝達速度検査を行い、感覚神経活動電位が検出されないことを確認することによって認定します。
「遠位指節間関節を屈伸することができないもの」とは、次の2つの場合が該当します。
①遠位指節間関節が強直したもの
②屈伸筋の損傷等原因が明らかなものであって、自動で屈伸ができないもの又はこれに近い状態にあるもの
⑵ 神経障害
手指の骨折に伴い、手指に痛みや痺れが残ってしまった場合、手指の神経障害として後遺障害と認定されることがあります。
手指の後遺障害は、12級と14級があります。
12級12号 |
局部にがん固な神経症状を残すもの |
14級9号 |
局部に神経症状を残すもの |
12級は、神経障害の存在が他覚的に証明できるもの、14級は、神経障害の存在が医学的に説明可能なものと言われています。
12級の他覚的な証明とは、労災事故により身体の異常が生じ、その異常により現在の障害が発生していることが、医師による診察や検査によって客観的に捉えられて、判断できることをいいます。
14級の医学的に説明可能とは、現在存在する症状が、労災事故により身体に生じた異常によって発生していると説明可能なものをいいます。
2 労災保険からの補償
(1)治療費と休業の補償
まず、労災事故にまきこまれて、手指の骨折をした場合、必ず、労災申請をしてください。
労災保険を利用することができれば、労災事故によるけがの治療費が、全額、労災保険から支給されます。
また、労災事故によるけがの治療のために、会社を休んだとしても、休業期間中、給料の約80%分が支給されます。
(2)後遺障害の補償
そして、労災事故によって後遺障害が残ったとしても、後遺障害と認定されれば、労災保険から、後遺障害の等級に応じた補償を受けることができます。
労災保険における、後遺障害に対する補償を、障害補償給付といいます。
障害補償給付の申請をする際には、労働基準監督署に対して、第10号の様式と、主治医に作成してもらった後遺障害の診断書を提出します。
手指の機能障害の場合、後遺障害は4級から14級まであり、4級と7級の場合、労災保険から年金が支給され、8級から14級までの場合、労災保険から一時金が支給されます。
ここで、後遺障害の第10級6号1の「手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの」に該当した場合で、いくらの補償が受けられるのかを検討してみます。
後遺障害10級の場合、障害補償給付として、①障害補償一時金、②障害特別一時金、③障害特別支援金が支給されます。
10級の場合、①障害補償一時金は、給付基礎日額の302日分が支給されます。
給付基礎日額とは、労災事故が発生した日の直前3ヶ月間の賃金の総支給額を日割り計算したものです。
10級の場合、②障害特別一時金は、算定基礎日額の302日分が支給されます。
算定基礎日額とは、労災事故が発生した日の直前1年間の賞与の金額を365日で割ってえられたものです。
10級の場合、③障害特別支援金は、39万円が支給されます。
具体的なケースで、10級の障害補償給付の金額を計算してみます。
毎月の給料が月額30万円、1年間の賞与が60万円の労働者が10月1日に労災事故にまきこまれてしまい、後遺障害10級と認定されたケースで、障害補償給付の金額を計算すると、次のとおりとなります。
①障害補償一時金
まずは、直近3ヶ月間の給付基礎日額を計算します。
7月は31日、8月は31日、9月は30日なので、(30万円+30万円+30万円)÷(31日+31日+30日)=9,782.6
1円未満の端数は、1円に切り上げるので、給付基礎日額は、9,783円となります。
10級の場合、障害補償一時金は、給付基礎日額の302日分が支給されますので、9,783円×302日=2,954,466円となります。
②障害特別一時金
まずは、直近1年間の算定基礎日額を計算します。
1年間の賞与が60万円なので、365日で割ると、60万円÷365日=1,643.8となり、1円未満の端数は1円に切り上げるので、算定基礎日額は、1,644円となります。
10級の場合、障害特別一時金は、算定基礎日額の302日分が支給されますので、1,644円×302日=496,488円となります。
③障害特別支援金
10級の場合の障害特別支援金は、39万円です。
以上を合計すると、2,954,466円(①障害補償一時金)+496,488円(②障害特別一時金)+39万円(③障害特別支援金)=3,840,954円となります。
3 会社に対する損害賠償請求
(1)労災保険の補償では足りない損害とは
労災保険から補償を受けることができた後に、労災事故について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。
その理由は、労災保険では、労災事故によって被った労働者の損害は、全て補償されないからなのです。
労災保険からは、労災事故によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は、支給されません。
また、後遺障害による収入の減少に対応する、労災保険の障害補償給付では、労働者の将来の収入の減少という損害が、全てまかなわれるわけではありません。
このように、労災保険からは支給されない慰謝料や、労災保険からの補償では足りない、労働者の将来の収入の減少の損害について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。
それでは、どのような場合に、会社に対して、損害賠償請求ができるのでしょうか。
(2)安全配慮義務とは
結論としては、労災事故について、会社が安全対策を怠っていた場合、会社に対して、損害賠償請求ができる可能性があります。
すなわち、労災事故で、会社に対して、損害賠償請求をするためには、会社に、安全配慮義務違反が認められなければなりません。
安全配慮義務とは、労働者の生命・健康を危険から保護するように、会社が配慮する義務をいいます。
そして、会社が、労働安全衛生法令やガイドラインに違反していた場合、安全配慮義務違反が認められます。
例えば、機械に安全装置が設置されていなかったり、労働者に対して保護具を使用させていなかったり、十分な安全教育が実施されていない場合に、安全配慮義務違反が認められることがあります。
そのため、労災事故が発生した会社に、労働安全衛生法令やガイドラインに違反していなかったについて、検討します。
その結果、会社に労働安全衛生法令やガイドラインの違反が認められた場合、安全配慮義務違反があったとして、会社に対して、損害賠償請求をします。
それでは、後遺障害の第10級6号1の「手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの」に該当した場合、会社に対して、いくらくらいの損害賠償請求ができるのかを計算してみます。
先ほどと同じように、毎月の給料が月額30万円、1年間の賞与が60万円、年収420万円の40歳の労働者が、10月1日に労災事故にまきこまれてしまい、後遺障害10級と認定されたケースで、損害賠償請求の金額を計算してみます。
ここでは、労災事故の損害賠償請求で大きな金額になる、①休業損害、②逸失利益、③慰謝料を計算します。
①休業損害
まず、労災事故後に会社を休んでいた期間の休業損害を計算します。
休業損害は、収入日額に休業日数をかけて計算します。
収入日額は、労災事故前3ヶ月間の給料総額を期間の総日数で割って計算するので、労災保険の給付基礎日額の計算とほぼ同じです。
今回のケースの場合、収入日額は、7月は31日、8月は31日、9月は30日なので、(30万円+30万円+30万円)÷(31日+31日+30日)=9,783円
休業日数が90日であれば、休業損害は、9,783円×90日=880,470円となります。
もっとも、休業損害からは、労災保険から支給された休業補償給付を控除します。
休業補償給付は、給料の約80%が支給されますが、80%のうちの20%の休業特別支給金は控除されません。
そのため、休業損害から控除されるのは、給料の約60%分である休業補償給付だけです。
例えば、今回のケースで、給料の約60%分である休業補償給付として、498,933円が支給されていた場合、会社に対して請求できる休業損害は、880,470-498,933=381,537円となります。
②逸失利益
逸失利益とは、労災事故がなければ将来得られたであろう収入のことです。
逸失利益は、次の計算式で計算します。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
基礎収入とは、労災事故の前年の年収のことです。
労働能力喪失率は、後遺障害によって、労働者の労働能力がどれくらいの割合で喪失したかを算出するものです。
後遺障害10級の場合、労働能力喪失率は、27%です。
労働能力喪失期間は、後遺障害による労働能力が喪失された期間のことで、原則として、67歳から症状固定時の年齢を差し引いて計算します。
今回のケースの場合、40歳で症状固定なので、労働能力喪失期間は、27年間となります。
ライプニッツ係数とは、労災事故などの損害賠償金に生じる中間利息を控除するための係数です。
逸失利益の損害賠償請求では、将来にわたる損害賠償金を一度に受け取ることなります。
その損害賠償金を運用すると利息が生じるので、この利息分を控除するために、ライプニッツ係数を使用します。
27年に対応するライプニッツ係数は、18.3270です。
今回のケースで逸失利益を計算すると、次のとおりとなります。
420万円×27%×18.3270=20,782,818円
この逸失利益の金額から、障害補償給付のうち、障害補償一時金を控除します。
障害補償給付のうち、障害特別一時金と障害特別支援金は控除されません。
今回のケースでは、障害補償一時金が2,954,466円なので、会社に対して請求できる逸失利益は、20,782,818-2,954,466=17,828,352円となります。
③慰謝料
労災事故の損害賠償で請求できる慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の2つがあります。
入通院慰謝料については、入院の月数と通院の月数から計算します。
例えば、入院2ヶ月、通院3ヶ月の場合、入通院慰謝料は、154万円になります。
後遺障害慰謝料については、後遺障害の等級に応じて金額が決まります。
後遺障害10級の場合、後遺障害慰謝料は、550万円になります。
このように、労災保険では補償されない損害について、会社に対して、損害賠償請求できないかを検討します。
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