船員が漁船から海中に転落した労災事故で、安全配慮義務違反は認められるのか?

Q:家族が水産会社に勤務していました。漁船で漁業作業をしていた時に、海中に転落してしまい、そのまま行方不明となってしまいました。勤務先の水産会社は、船員にライフジャケットを着用させていませんでした。勤務先の水産会社に対して、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求ができないのでしょうか。

 

 

A:会社が船員に対して、ライフジャケットを着用させていなかった場合、会社には、安全配慮義務違反が認められます。

 

 

 

1 労災事故で会社に対して損害賠償請求するには

 

 

 労働者が仕事中に負傷したり、仕事が原因で死亡するような労災事故に巻き込まれた場合、労災保険を利用できます。

 

 

 労災保険を利用することで、治療費が全額、労災保険から支給されたり、治療のために会社を休んでいる期間、給料の約8割の補償を受けられたり、労働者が死亡した場合には、遺族に年金が支給されたりします。

 

 

 そのため、労災事故にあった場合には、労災保険を利用するために、労働基準監督署に対して、労災の申請をし、労災と認定してもらいます。

 

 

 もっとも、労災保険からの給付だけでは、労働者が労災事故で被った損害の全額を回復することにはなりません。

 

 

 労災保険からは、労働者が労災事故で被った損害の一部が補償されるので、労災保険からの給付では補償されない部分については、労災事故を発生させた会社に対して、損害賠償請求をすることを検討します。

 

 

 例えば、慰謝料については、労災保険から支給されませんので、会社に対して、請求していく必要があります。

 

 

 労災事故について、会社に対して、損害賠償請求をするためには、会社が安全配慮義務に違反したことを証明しなければなりません。

 

 

 安全配慮義務とは、労働者が生命や身体の安全を確保しつつ、働くことができるように、必要な配慮をする会社の義務のことです。

 

 

 この安全配慮義務に違反した場合、会社は、損害賠償の責任を負うのです。

 

 

 そして、労災事故では、会社が、事業を行う上において、守らなければならない法令に違反して、労災事故を発生させた場合に、安全配慮義務違反が認められます。

 

 

2 海中転落事故における会社の安全配慮義務

 

 

 それでは、海中転落事故における会社の安全配慮義務の具体的な内容について解説します。

 

 

 船員安全衛生規則57条3号には、次のように規定されています。

 

 

 船舶所有者は、甲板上で漁労作業を行わせる場合は、作業に従事する者に命綱または作業用救命胴衣を使用させること。

 

 

 ようするに、船の上で、魚を獲る作業をさせる場合、会社は、船員に対して、ライフジャケットを着用させなければならないのです。

 

 

 ライフジャケットを着用しても、足もとの視界がそれほど悪くなるわけではなく、魚を獲る作業に支障は生じません。

 

 

 また、ライフジャケットを着用した場合、船員が海中に転落しても、3時間は、海面上に顔面を出した状態で生存することができます。

 

 

 

 さらに、ライフジャケットは、黄色やオレンジ色などの見やすい色であり、付属の笛を鳴らすことで、近くを通る船舶に対して、自己の存在を発見してもらいやすいのです。

 

 

 そして、ライフジャケットを未着用の場合の生存率は49%であるのに対して、ライフジャケットを着用した場合の生存率は74%であり、ライフジャケットは、船員の生命を守るために効果的です。

 

 

 このように、船員が海中に転落しても、ライフジャケットを着用していれば、船員を救助できる可能性が高くなることから、会社は、船員に対して、ライフジャケットを着用させなければならず、これに違反した場合には、会社に、安全配慮義務違反が認められます。

 

 

3 海中転落の労災事故は弁護士にご相談ください

 

 

 ご家族が、海中転落の労災事故にあわれた場合、労災に詳しい弁護士にご相談ください。

 

 

 弁護士は、労災事故に関する証拠を集め、分析し、会社に対する損害賠償請求が認められるのか、損害賠償請求が認められるとして、いくらの賠償金を回収できるのか等について、詳しく、見通しを説明してくれます。

 

 

 労働者のご家族が会社と交渉しても、会社が真摯な対応をしてくれず、不安や不信を抱くかもしれませんが、弁護士が代わりに交渉することで、労働者のご家族に適切な補償がなされることがあります。

 

 

 ぜひ、労災に詳しい弁護士に法律相談をすることをおすすめします。