労災事故でケガをした場合の損害賠償の相場は?【弁護士が解説】

Q.労災事故によってケガをしたのですが、会社に対して、いくらくらいの損害賠償請求ができるのでしょうか。

A.会社に対して、休業損害、逸失利益、慰謝料などを損害賠償として請求できます。

被災労働者の収入や、ケガの程度、治療期間などによって、損害賠償請求の金額は変わりますので、以下では、具体的なケースで解説します。

 

 

休業損害

休業損害とは、労災事故によってケガを負い、働けなくってしまったことによって生じる収入の減少の損害のことです。

 

休業損害は、以下の計算方法で算出します。

 

収入日額×認定休業日数

 

収入日額については、労災事故前3ヶ月間の給与総額を期間の総日数で除して算出することが多いです。

 

例えば、2020年12月に労災事故が発生して休業する場合、2020年9月の給与が32万円、2020年10月の給与が36万円、2020年11月の給与が34万円の場合、収入日額は次のように計算します。

 

(32万+36万+34万)÷(30+31+30)=11,209円

 

被災労働者が、労災事故後、治療のために、会社を60日休業した場合、休業損害は次のように計算します。

 

11,209×60=672,540円

 

次に、労災事故によってケガをしてしまい、治療のために会社を休んでいる場合、労災保険から休業補償給付を受給できます。

 

この休業補償給付で、概ね給料の80%が補償されます。

 

給料の80%が補償される休業補償給付のうち、60%については、休業損害から控除されますが、20%については、休業特別支給金と呼ばれるもので、休業損害から控除されません。

 

例えば、休業損害が672,540円で、労災保険から休業補償給付として、合計48万円が支給されていて、48万円のうち休業特別支給金が12万円とすると、休業損害から控除される休業補償給付は36万円となり、会社に対して請求できる休業損害は、次のように計算します。

 

672,540-36万=312,540円

 

逸失利益

逸失利益とは、労災事故がなければ将来得られたであろう利益のことをいいます。

 

労災事故が原因でケガをしてしまい、治療を続けたものの、一定の悪い症状が残存する場合があります。

 

この残存する症状のことを後遺障害といいます。

 

労災事故の後遺障害の場合、1級から14級までの等級があり、いずれかの等級が認定されると、等級に応じた労働能力が喪失したとして、労働能力が喪失した分の逸失利益を損害賠償として請求できるのです。

 

1級から14級までの後遺障害の等級ごとの労働能力喪失率は次の表のとおりです。

 

等級 労働能力喪失率
第1級 100%
第2級 100%
第3級 100%
第4級 92%
第5級 79%
第6級 67%
第7級 56%
第8級 45%
第9級 35%
第10級 27%
第11級 20%
第12級 14%
第13級 9%
第14級 5%

 

そして、労災事故による損害賠償金は、通常一括で支払われますので、将来受け取るはずであった逸失利益をあらかじめ受け取ることになり、あらかじめ受け取ったお金を銀行の預金として預けると利息がつくので、その利息分を控除することになります。

 

これを中間利息の控除といいます。

 

 

この中間利息を控除するための係数をライプニッツ係数といいます。

 

労働能力喪失期間は、通常、就労可能年限である67歳までとされます。

 

以上をまとめると、後遺障害の逸失利益は、次のように計算します。

 

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

 

具体的な事例で計算してみましょう。

 

例えば、年収500万円の32歳の労働者が、2020年12月に労災事故でケガを負い、後遺障害11級の認定を受けた場合、労働能力喪失率20%、労働能力喪失期間35年に対応するライプニッツ係数21.4872となり、次のように計算します。

 

500万×20%×21.4872=21,487,200円

 

次に、後遺障害の等級の認定を受けますと、労災保険から、障害補償給付を受給できます。

 

11級の場合、障害補償一時金として給付基礎日額の223日分、障害特別支給金として29万円、障害特別一時金として、算定基礎日額の223日分が支給されます。

 

この障害補償給付のうち、障害補償一時金については、逸失利益から控除されますが、障害特別支給金と障害特別一時金については、逸失利益から控除されません。

 

例えば、障害補償一時金が3,054,877円とした場合、上記の具体例で、最終的に請求できる逸失利益は、次のように計算します。

 

21,487,200-3,054,877=18,432,323円

 

 

慰謝料

 

労災事故によって、ケガをして、後遺障害が残り、会社に対して、損害賠償請求する場合、慰謝料として、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を請求できます。

 

入通院慰謝料については、原則として、治療が終了するまでに病院に入院したり、通院した期間を基礎として、次の表をもとに算出するのが一般的です。

 

入通院慰謝料 (単位:万円)
  入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院   A 53 101 145 184 217 244 266 284 297 306 314 321 328 334 340
B  
1月 28 77 122 162 199 228 252 274 291 303 311 318 325 332 336 342
2月 52 98 139 177 210 236 260 281 297 308 315 322 329 334 338 344
3月 73 115 154 188 218 244 267 287 302 312 319 326 331 336 340 346
4月 90 130 165 196 226 251 273 292 306 316 323 328 333 338 342 348
5月 105 141 173 204 233 257 278 296 310 320 325 330 335 340 344 350
6月 116 149 181 211 239 262 282 300 314 322 327 332 337 342 346  
7月 124 157 188 217 244 266 286 304 316 324 329 334 339 344    
8月 132 164 194 222 248 270 290 306 318 326 331 336 341      
9月 139 170 199 226 252 274 292 308 320 328 333 338        
10月 145 175 203 230 256 276 294 310 322 330 335          
11月 150 179 207 234 258 278 296 312 324 332            
12月 154 183 211 236 260 280 298 314 326              
13月 158 187 213 238 262 282 300 316                
14月 162 189 215 240 264 284 302                  
15月 164 191 217 242 266 286                    

 

「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻の入通院慰謝料別表Ⅰ」より抜粋

 

例えば、5ヶ月間通院したのであれば、105万円の入通院慰謝料を請求できます。

 

また、1ヶ月間入院して、その後、6ヶ月間通院したのであれば、149万円の入通院慰謝料を請求できます。

 

後遺障害慰謝料については、以下の表をもとに算出するのが一般的です。

 

等級 慰謝料金額 
第1級 2800万円
第2級 2370万円
第3級 1990万円
第4級 1670万円
第5級 1400万円
第6級 1180万円
第7級 1000万円
第8級 830万円
第9級 690万円
第10級 550万円
第11級 420万円
第12級 290万円
第13級 180万円
第14級 110万円

例えば、11級の後遺障害が認定された場合には、420万円の後遺障害慰謝料を請求できます。

 

以上のように、会社に対して、いくらの損害賠償請求ができるのかを計算します。

 

労災事故にあわれて、ケガを負ってしまい、会社に対して、損害賠償請求を検討する場合には、労災に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。