【偽装フリーランス】なぜアマゾン配達員は労災認定されたのか?【弁護士が解説】

Q 会社との間で、業務委託契約を締結して、フリーランスとして働いているけれども、会社の指示に従い、長時間働いているので、実態は雇用に近い場合、仕事中にけがをしたら、労災保険から、補償を受けられないのでしょうか。

 

 

A 労働者と認定されれば、労災保険から補償を受けることができます。

 

 

1 アマゾン配達員の労災事件

 

 

 

 アマゾンの配達を担うフリーランスの配達員について、2023年9月、横須賀労働基準監督署は、配達中のけがを労災と認定しました。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231004/k10014215281000.html

 

 

フリーランスのアマゾンの配達員がけがで労災認定されたのは初めてであり、とても注目されています。

 

 

形式はフリーランスであっても、実態が労働者であれば、仕事中にけがをしても労災保険が適用されるので、安心して治療に専念できます。

 

 

今回は、フリーランスの方が知っておくべき、労働者として保護されることのメリットを分かりやすく解説します。

 

 

まずは、アマゾン配達員の労災事件について、解説します。

 

 

アマゾンの荷物を配達する運送会社と業務委託契約を締結して、フリーランスで働く配達員が、配達の仕事をしていた時、階段から転落して、腰の骨を折る重傷を負いました。

 

 

その結果、このアマゾンの配達員は、2ヶ月ほど働くことができず、その間、仕事の収入はゼロになりました。

 

 

 他方、このアマゾンの配達員は、朝8時に運送会社の営業所で荷物を受け取り、夜9時に配り終えるまで、一日中配達に追われている状態でした。

 

 

 そして、アマゾンが提供するスマートフォンのアプリで、配達先や労働時間が管理されていました。

 

 

 このアマゾンの配達員は、次のように思ったはずです。

 

 

「自分と運送会社との契約は、形式的には業務委託だが、実際は、雇用ではないか?」

 

 

 そこで、仕事中に負傷したアマゾンの配達員は、自分は「労働者」であるとして、労働基準監督署へ労災の申請をしました。

 

 

 ここで、アマゾンの配達員が、「労働者」と認められれば、労災保険から、補償を受けられることができます。

 

 

 そのため、アマゾンの配達員が、「労働者」に該当するのかが、労災認定における、争点となりました。

 

 

2 労働者とは?

 

 

 それでは、「労働者」とはどのような人をいうのでしょうか。

 

 

 

 労働契約法2条1項に、労働者の定義が記載されています。

 

 

 「労働者とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」

 

 

 まず、会社に使用されて労働するという定義から、①会社の指揮監督下において労務を提供する者が、労働者であるといえます。

 

 

 次に、賃金を支払われる者という定義から、②労務に対する対償を支払われる者が、労働者であるといえます。

 

 

 この①と②の要件をあわせて、使用従属性の要件といいます。

 

 

 この2つの要件では、抽象的ですので、要件にあてはまるかを検討するための考慮要素があります。

 

 

 会社の指揮監督下における労務提供の有無の考慮要素として、次の4つがあります。

 

 

 ①仕事の依頼、業務従事の指示に対する諾否の自由の有無

 

 

 仕事の依頼を断る自由があれば、労働者ではない方向にはたらき、仕事の依頼を断ることができないのであれば、労働者の方向にはたらくことになります。

 

 

 ②業務遂行上の指揮監督の有無

 

 

 会社から具体的な指揮命令を受けていれば、労働者である方向にはたらき、会社から指揮命令を受けていないならば、労働者ではない方向にはたらくことになります。

 

 

 ③時間的・場所的拘束の有無

 

 

 勤務時間と勤務場所が拘束されていれば、労働者の方向にはたらき、勤務時間と勤務場所が拘束されていないならば、労働者ではない方向にはたらくことになります。

 

 

 ④労務提供の代替性の有無

 

 

 本人に代わって労務を提供することが認められていれば、労働者ではない方向にはたらき、本人でないと労務提供が認められていないのであれば、労働者である方向にはたらくことになります。

 

 

 もう一つの要件である、⑤報酬の労務対償性の有無については、金額、計算方法、支払形態が従業員の賃金と同じかといったことを考慮します。

 

 

 例えば、報酬が時間給で計算されていたり、欠勤した場合には、控除されたり、残業したら別の手当てが支給されていれば、賃金であるとして、労働者である方向にはたらくことになります。

 

 

 すなわち、会社の指揮監督下で、一定時間労務を提供していることに対する対価といえるかについて、検討します。

 

 

 また、その他の補強要素として、次の2つの考慮要素があります。

 

 

 ⑥事業者性の有無

 

 

 機械・器具の負担、業務遂行上の損害の負担、独自の商号使用が認められていれば、事業者の方向に働き、労働者ではない方向にはたらくことになります。

 

 

 ⑦専属性の有無

 

 

 他社の業務に従事することについて、時間的余裕がなく事実上困難であれば、

専属性が高いといえ、経済的にその会社に従属しているとして、労働者である方向にはたらくことになります。

 

 

 また、報酬に固定給部分があるなど、報酬に生活保障的要素があれば、労働者である方向にはたらくことになります。

 

 

 これら①~⑦の事情を総合考慮して、労働者か否かを判断します。

 

 

 それでは、これら①~⑦の事情を、アマゾン配達員にあてはめてみましょう。

 

 

 ①仕事の依頼、業務従事の指示に対する諾否の自由の有無

 

 

 現時点では、詳細は不明ですが、アプリの指示に従わないと、アカウントが停止される仕組みになっていれば、仕事の諾否の自由はないことになります。

 

 

 ②業務遂行上の指揮監督の有無

 

 

 アプリを通じて配達先と労働時間が管理され、シフトの決定は運送会社がしていたことから、業務遂行上の指揮監督はあったといえそうです。

 

 

 ③時間的・場所的拘束の有無

 

 

 アプリで配達先と労働時間が管理されていたので、時間的・場所的な拘束があったといえそうです。

 

 

 ④労務提供の代替性の有無

 

 

 別の配達員に仕事を代わってもらえていたのであれば、労働者ではない方向にはたらくことになります。

 

 

 ⑤報酬の労務対償性の有無

 

 

 日当1万8000円で、運送会社が決めていたことから、賃金と評価できる余地があります。

 

 

 ⑥事業者性の有無

 

 

 配送車両は配達員名義、損害の負担は配達員となっていたようですので、労働者ではない方向にはたらくことになります。

 

 

 ⑦専属性の有無

 

 

 朝8時から夜9時まで荷物を運び終わるまで働く必要があるので、専属性は高いといえそうです。

 

 

 以上をまとめますと、アプリを通じて、配達先と労働時間が管理されていたことが重視されて、指揮監督を受けていたと評価でき、アマゾンの配達員は「労働者」に該当すると判断されたと考えます。

 

 

3 労働者として保護されるメリット

 

 

 最後に、労働者として保護されるメリットを3つ解説します。

 

 

 ①労働基準法が適用される

 

 

 

 労働基準法が適用されれば、1日8時間を超えて働いた場合、残業代を請求できます。

 

 

 また、年次有給休暇を取得できるので、仕事を休んでも、給料が支給されます。

 

 

 ②労災保険から補償を受けられる

 

 

 今回のアマゾン配達員の労災事件のように、仕事中にけがをしても、労災保険から、補償を受けられます。

 

 

 具体的には、労災保険から、治療費全額支給されます。

 

 

 また、けがの治療のための休業期間中、労災保険から、給料の約8割が補償されます。

 

 

 そのため、安心して治療に専念することができます。

 

 

 ③最低賃金が適用される

 

 

 最低賃金以下で働かされた場合、最低賃金との差額を請求できます。

 

 

 ちなみに、2023年10月の石川県の最低賃金は、時給933円です。

 

 

 今回の記事をまとめますと、形式は業務委託などのフリーランスであっても、実態が雇用であれば、労働者として保護されるのです。

 

 

 フリーランスの方が、この働き方は雇用ではないかと思った場合には、弁護士にご相談ください。

 

 

 弁護士は、フリーランスの方に、労働基準法が適用されるのかについて、適切なアドバイスをしてくれます。

 

 

 You Tubeでも、情報発信をしているので、こちらもご参照ください。

 

https://www.youtube.com/@user-oe2oi7pt2p

 

 

 それでは、今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。