運送業における労災事故の対処法【弁護士が解説】

1 運送業における労災事故の実態

 

 

 

 運送業に従事している労働者が、労災事故にまきこまれた場合、どうすればいいのでしょうか。

 

 

 結論から先にいいますと、運送業に従事している時に労災事故にまきこまれた場合、労災保険を利用し、その後、会社に対する損害賠償請求を検討します。

 

 

 今回の記事では、①運送業における労災事故の実態、②労災申請、③損害賠償請求の3つの順番で解説します。

 

 

 まず、運送業で荷役作業をしている時の労災事故の類型として、次の5つが挙げられます。

 

 

 ⑴ トラック・荷台等からの墜落・転落による労災事故

 

 

 具体的には、足を滑らせてリアバンパーから転落したり、テールゲートリフターから荷降ろしをしていたときに、後方に転落したという労災事故がありました。

 

 

 墜落や転落の労災事故の場合、頭を強打すると死に至りますので、荷役作業時には、保護帽を着用することで、死亡のリスクを軽減できます。

 

 

 ⑵ トラック・荷台等での荷崩れによる労災事故

 

 

 具体的には、トラックの固定ベルトを外した途端に荷台から多くの建築資材が落下してきたという労災事故がありました。

 

 

 荷崩れによる労災事故を防止するためには、適切な方法で荷物を固定させることが重要です。

 

 

 ⑶ フォークリフト使用時における労災事故

 

 

 具体的には、フォークリフトの運転手による不適切な運転操作や、歩行者立入禁止エリアにいた労働者がフォークリフトと接触したという労災事故がありました。

 

 

 フォークリフトの運転手やフォークリフトの周囲で作業する労働者は、事業所で定められたルールを守り、適切な行動をとることで、フォークリフトによる労災事故を防止することができます。

 

 

 ⑷ トラックの無人暴走による労災事故

 

 

 具体的には、坂道でトラックを停めて降車したところ、無人のトラックが動き出したので、それを止めようとした際に、無人のトラックに轢かれたという労災事故がありました。

 

 

 トラックの無人暴走の労災事故を防止するためには、降車時には、パーキングブレーキをかけ、エンジンを停止し、ギアロックをし、輪止めを設置するのが効果的です。

 

 

 ⑸ トラック後退時における労災事故

 

 

 具体的には、トラックの後退誘導時に、労働者がトラックと電柱に挟まれるという労災事故がありました。

 

 

 トラック後退時の労災事故の多くが、後方の確認が不十分だったために発生していることから、後方の確認を十分に行ったうえで、トラックを後退させることが重要です。

 

 

 次に、運送業の労災事故において、死亡件数が最も多いのが交通事故です。

 

 

 トラックの交通事故の原因で多いのが、居眠り運転、脇見運転、安全不確認などです。

 

 

 トラックの交通事故を防止するためには、運転手の健康管理やトラックの定期的なメンテナンスが効果的です。

 

 

 その他にも、厚生労働省の統計によりますと、長時間労働等の過労を原因とする脳梗塞等の脳の疾患及び心筋梗塞等の心臓の疾患の労災認定件数が、最も多いのが運送業です。

 

 

 運送業は、労働時間が長く、長時間の運転による疲労が蓄積されやすいため、脳・心臓の疾患を発症しやすいのです。

 

 

 このように、運送業では、①荷役作業中の労災事故、②運転中の交通事故、③長時間労働による脳・心臓疾患の発症といった、類型の労災事故が発生しています。

 

 

2 労災申請をする

 

 

 

 不幸にも、運送業に従事していた時に、労災事故にまきこまれた場合には、必ず、労災申請をしてください。

 

 

 運送業における労災事故が、労災と認定されれば、労災保険から、治療費が全額支給されます。

 

 

 治療のために、会社を休業している期間、給料の約8割が支給されます。

 

 

 そのため、安心して治療に専念できます。

 

 

 運送業における労災事故によるケガの治療を続けていたものの、これ以上、現在の医学では、症状が改善されない時がきます。

 

 

 これを、症状固定といいます。

 

 

 症状固定時点で、残ってしまった症状で、労働能力の喪失を伴うものを、後遺障害といいます。

 

 

 労災保険では、1級から7級までの後遺障害の認定がされた場合には、年金が支給され、8級から14級までの後遺障害の認定がされた場合には、一時金が支給されます。

 

 

 後遺障害が残った場合、労災保険から、年金または一時金が支給されることで、後遺障害によって、労働能力が失われたことによる収入の減少に対する補償がなされ、今後の生活が安定します。

 

 

 他方、運送業における労災事故によって、不幸にも、死に至った場合、ご遺族は、労災保険の遺族補償給付を受給できます。

 

 

 遺族補償給付を受給できれば、2ヶ月に1回、労災保険から、年金が支給されますので、残されたご遺族の生活の安定につながります。

 

 

 このように、運送業に従事していた時に、労災事故にまきこまれた場合、今後の生活の安定のために、必ず、労災申請をしてください。

 

 

 労災申請をするには、①会社に手続を代行してもらうか、②ご自身で労働基準監督署へ行って手続をする、③弁護士に労災申請を依頼する、の3つの方法があります。

 

 

 労災の申請書に、労災事故の発生状況を正確に記載する必要があること、適切な後遺障害の認定を受ける必要があることから、労災申請の手続を、弁護士に依頼することをおすすめします。

 

 

3 会社に対する損害賠償請求を検討する

 

 

 

 労災保険からは、労災事故によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は、支給されません。

 

 

 また、後遺障害による収入の減少に対応する、労災保険の障害補償給付と、労働者の死亡による収入の喪失に対応する、労災保険の遺族補償給付では、労働者の将来の収入の減少・喪失という損害が、全てまかなわれるわけではありません。

 

 

 このように、労災保険からは支給されない慰謝料や、労災保険からの補償では足りない、労働者の将来の収入の減少・喪失の損害について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。

 

 

 すなわち、運送業における労災事故について、会社が安全対策を怠っていた場合、会社に対して、損害賠償請求ができる可能性があります。

 

 

 労災事故で、会社に対して、損害賠償請求をするためには、会社に、安全配慮義務違反が認められなければなりません。

 

 

 安全配慮義務とは、労働者の生命・健康を危険から保護するように、会社が配慮する義務をいいます。

 

 

 では、どのような場合に、会社に安全配慮義務違反が認められるのでしょうか。

 

 

 例えば、トラックの荷台から荷物が荷崩れして、荷物の下敷きになったという労災事故が発生したとしましょう。

 

 

 労災事故が発生した当時、会社が作業手順書を作成していなかったり、会社が荷物の固定の方法について適切な指導をしていなかった場合には、会社は、荷崩れによる労災事故を防止するための安全対策を怠ったとして、安全配慮義務違反が認められる可能性があります。

 

 

 このように、会社が労災事故を防止するための安全対策を怠っていた場合、労働者は、会社に対して、労災保険からの補償では足りない損害について、損害賠償請求をすることができるのです。

 

 

 当事務所では、労災事故で不幸にも後遺障害が残ってしまった方が適切な補償を受けられるために、労災申請のサポートをさせていただいております。

 

 

 また、当事務所では、労災事故において、安全対策を怠った会社に対する損害賠償請求の事件に、積極的に取り組んでおります。

 

 

 労災事故にまきこまれて、これからどうすればいいのかお悩みの場合には、ぜひ、当事務所へご相談ください。