クレーンの労災事故に巻き込まれた時の対処法【弁護士が解説】

1 クレーンの労災事故

 

 

 溶接の仕事をしている時、クレーンを使って、鉄の工作物の位置を変えようとしたところ、クレーンのフックが外れて、鉄の工作物が足に落下して、足の指を骨折しました。

 

 足の指の治療をしていましたが、足の指が固くなり、足の指を曲げることができなくなり、痛みも残っています。

 

 このようなクレーンの労災事故に巻き込まれた場合、どうすればいいのでしょうか。

 

 結論から先に言いますと、労災申請をして、労災と認定された後に、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。

 

 この記事では、クレーンの労災事故に巻き込まれた時の対処法について、わかりやすく解説します。

 

 まず、一般社団法人日本クレーン協会が公表している情報によりますと、令和4年において、クレーンの労災事故による死傷者数は、1,594人であり、死亡者数は、52人でした。

 

 クレーンの労災事故が最も多く発生している業種は、製造業で、次に多く発生しているのは、建設業です。

 

 次に、クレーンによる労災事故の事例として、次のようなものが挙げられます。

 

 

 ①鉄製の荷をパレットに載せて天井クレーンで移動させていたところ,荷物がパレットから落下し、労働者の頭部を直撃して死亡した労災事故

 

 ②玉掛けワイヤロープが切断して、吊り荷物が落下して、労働者を直撃して死亡した労災事故

 

 ③移動式クレーンの巻き上げ用ロープが破断して、つっていた荷物が落下し、荷物の直撃によって労働者が死亡した労災事故

 

 このように、クレーン作業中の労災事故に巻き込まれた場合、つっていた荷物が落下してきて、最悪死亡に至ることがありえるのです。

 

2 労災申請をする

 

 

 不幸にも、クレーンの作業中に、労災事故にまきこまれた場合には、必ず、労災申請をしてください。

 

 クレーン作業中の労災事故が、労災と認定されれば、労災保険から、治療費が全額支給されます。

 

 治療のために、会社を休業している期間、給料の約8割が支給されます。

 

 そのため、安心して治療に専念できます。

 

 労災事故によるケガの治療を続けていたものの、これ以上、現在の医学では、症状が改善されない時がきます。

 

 これを、症状固定といいます。

 

 症状固定時点で、残ってしまった悪しき症状で、労働能力の喪失を伴うものを、後遺障害といいます。

 

 労災保険では、1級から7級までの後遺障害の認定がされた場合には、年金が支給され、8級から14級までの後遺障害の認定がされた場合には、一時金が支給されます。

 

 後遺障害が残った場合、労災保険から、年金または一時金が支給されることで、後遺障害によって、労働能力が失われたことによる収入の減少に対する補償がなされ、今後の生活が安定します。

 

 例えば、冒頭の労災事故の場合、1つの足の親指と他の足の指が固くなり、足の指を曲げにくくなっており、足の指の可動域が正常な足の指の2分の1以下であった場合、11級の8の後遺障害と認定されます。

 

 11級の場合、障害補償一時金として、給付基礎日額の223日分、障害特別支給金として、29万円、障害特別一時金として、算定基礎日額の223日分が支給されます。

 

 他方、クレーン作業中の労災事故によって、不幸にも、死に至った場合、ご遺族は、労災保険の遺族補償給付を受給できます。

 

 遺族補償給付を受給できれば、2ヶ月に1回、労災保険から、年金が支給されますので、残されたご遺族の生活の安定につながります。

 

 このように、クレーン作業中に、労災事故にまきこまれた場合、今後の生活の安定のために、必ず、労災申請をしてください。

 

 労災申請をするには、①会社に手続を代行してもらうか、②ご自身で労働基準監督署へ行って手続をする、③弁護士に労災申請を依頼する、の3つの方法があります。

 

 労災の申請書に、労災事故の発生状況を正確に記載する必要があること、適切な後遺障害の認定を受ける必要があることから、労災申請の手続を、弁護士に依頼することをおすすめします。

 

3 会社に対する損害賠償請求を検討する

 

 

 労災保険からは、労災事故によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は、支給されません。

 

 また、後遺障害による収入の減少に対応する、労災保険の障害補償給付と、労働者の死亡による収入の喪失に対応する、労災保険の遺族補償給付では、労働者の将来の収入の減少・喪失という損害が、全てまかなわれるわけではありません。

 

 このように、労災保険からは支給されない慰謝料や、労災保険からの補償では足りない、労働者の将来の収入の減少・喪失の損害について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。

 

 すなわち、クレーン作業中の労災事故について、会社が安全対策を怠っていた場合、会社に対して、損害賠償請求ができる可能性があります。

 

 労災事故で、会社に対して、損害賠償請求をするためには、会社に、安全配慮義務違反が認められなければなりません。

 

 安全配慮義務とは、労働者の生命・健康を危険から保護するように、会社が配慮する義務をいいます。

 

 では、どのような場合に、会社に安全配慮義務違反が認められるのでしょうか。

 

 例えば、クレーンに安全装置が装備されていない、または、安全装置が故障していたために、クレーンから荷物が落下して、労災事故が発生した場合、会社に安全配慮義務違反が認められる可能性があります。

 

 クレーンの安全装置としては、巻過防止措置、フック外れ止め装置、警報装置等が挙げられます。

 

 また、クレーンのワイヤーロープが破断して、荷物が落下した労災事故において、使用禁止基準に該当するワイヤーロープが使用されていたり、交換時期が経過していたワイヤーロープが使用されていた場合には、会社に安全配慮義務違反が認められる可能性があります。

 

 このように、会社が労災事故を防止するための安全対策を怠っていた場合、労働者は、会社に対して、労災保険からの補償では足りない損害について、損害賠償請求をすることができるのです。

 

 ここまで、クレーン作業中の労災事故について解説してまいりました。

 

 もし、労災事故に巻き込まれた場合には、労災申請をしていただきたいのですが、わからない場合は弁護士にご相談ください。

 

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