職場の騒音で難聴になった場合、労災と認定されるのか?【弁護士が解説】

1 騒音性難聴の労災認定基準

 

 

 密閉された部屋で、うるさい音の出る機械を使った作業を長年行っていました。

 

 すると、人の話が聞き取りにくくなり、耳鼻咽喉科を受診したところ、騒音性難聴と診断されました。

 

 このように、職場の騒音によって難聴を発症した場合、労災認定されるのでしょうか?

 

 結論から先にいいますと、著しい騒音にばく露される仕事に長期間従事していた場合、難聴が労災と認定されることがあります。

 

 今回の記事では、①騒音性難聴の労災認定基準、②聴力障害の後遺障害、③会社に対する損害賠償請求の順番で解説します。

 

 まず、騒音性難聴について説明します。

 

 人は強大な騒音にばく露された場合、それが短時間であっても、一時的な聴力低下をきたすことがあります。

 

 このような一時的聴力損失は、聴覚の疲労現象と考えられており、一定の時間がたつと回復します。

 

 しかし、一時的聴力損失が十分に回復する前に再び強大な騒音のばく露を受け、これが長期間にわたって反復継続されると、聴覚の疲労現象が一歩進んで、聴覚器官の損傷を生じ、永久的聴力損失に至ります。

 

 このような慢性的な騒音ばく露による永久的聴力損失を騒音性難聴といいます。

 

 具体的には、建設工事や鉱山における削岩作業等による難聴や、造船所におけるハンマー打ち作業等による難聴が、騒音性難聴になることがあります。

 

 騒音性難聴について、厚生労働省は、労災認定基準を策定しておりまして、次のいずれの要件も満たせば、騒音性難聴が労災と認定されます。

 

 ①著しい騒音にばく露される業務に長期間引続き従事した後に発生したものであること

 

 ②次の(1)及び(2)のいずれにも該当する難聴であること

 

 (1)鼓膜又は中耳に著変がないこと

 

 (2)純音聴力検査の結果が次のとおりであること

 

  イ オージオグラムにおいて気導値及び骨導値が障害され、気導値と骨導値に明らかな差がないこと

 

  ロ オージオグラムにおいて聴力障害が低音域より3,000Hz以上の高音域において大であること

 

 ③ 内耳炎等による難聴でないと判断されるものであること

 

 ここで、①の「著しい騒音にばく露される業務」とは、作業者の耳の位置における騒音がおおむね85dB(A)以上である業務をいいます。

 

 また、①の「長期間」とは、おおむね5年又はこれを超える期間をいいます。

 

 上記①から③の要件を満たせば、騒音性難聴が労災と認定されます。

 

2 聴力障害の後遺障害

 

 

 騒音性難聴が労災と認定され、騒音性難聴による聴力障害が、後遺障害と認定されれば、労災保険から、障害補償給付を受給できます。

 

 労災保険における聴力障害は、次のようになっております。

 

両耳の聴力障害

4級3号       両耳の聴力を全く失ったもの

6級3号       両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの

6級4号       1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

7級2号       両耳聴力が40センチメートル以上の距離では、普通の話声を解することができない程度になったもの

7級3号       1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

9級7号       両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声をかいすることができない程度になったもの

9級8号       1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの

10級5号      両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの

11級5号      両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの

 

1耳の聴力障害

9級9号       1耳の聴力を全く失ったもの

10級6号      1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの

11級6号      1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

14級3号      1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの

 

 この後遺障害のうち、4級、6級、7級に該当した場合、労災保険から、2ヶ月に1回、年金が支給されます。

 

 また、9級、10級、11級、14級に該当した場合、労災保険から、一時金が支給されます。

 

 このように、騒音性難聴が後遺障害と認定されれば、聴力が低下したことによって、労働能力が失われて、将来の収入が減少する分の補償を受けることができ、一定程度、生活が安定します。

 

3 会社に対する損害賠償請求

 

 

 騒音性難聴が労災と認定された場合、次にすべきことは、会社に対する損害賠償請求を検討することです。

 

 労災保険からは、労災事故によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は、支給されません。

 

 また、後遺障害による収入の減少に対応する、労災保険の障害補償給付では、労働者の将来の収入の減少という損害が、全てまかなわれるわけではありません。

 

 このように、労災保険からは支給されない慰謝料や、労災保険からの補償では足りない、労働者の将来の収入の減少の損害について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。

 

 労災事故で、会社に対して、損害賠償請求をするためには、会社に、安全配慮義務違反が認められなければなりません。

 

 安全配慮義務とは、労働者の生命・健康を危険から保護するように、会社が配慮する義務をいいます。

 

 騒音性難聴の労災事件では、次のような騒音性難聴の防止対策を実施していなかった場合、会社に安全配慮義務違反が認められる可能性がでてきます。

 

 ①環境改善

 

 イ 音源の改善 

 

騒音のより少ない機械器具、装置、工程、作業方法を算用して、騒音を軽減させる、または、機械器具、装置を遠隔操作し騒音発生源から作業者を隔離する。

 

ロ 遮音の措置

 

音源となる機械器具、装置にカバーを設置する、ついたてを設置する、隔壁を設置する等して、作業者がばく露する騒音の軽減を図る。

 

ハ 吸音の措置

 

カバー、天井、壁等に適切な吸音材を使用し、作業場の吸音力の増加を図り、作業者の騒音ばく露量を軽減する。

 

 ② 騒音の測定

 

 作業環境の騒音レベルを定期的に測定し、騒音性難聴発生のおそれのある場所を発見するとともに、騒音対策の管理状態をモニタリングする。

 

 ③ 防音保護具の支給及び着用

 

 耳栓やイヤマフ等を支給して、着用させる。

 

 ④ 作業者への衛生教育

 

 騒音ばく露量を少なくするための作業方法や防音保護具について、作業者を教育し、作業者自ら積極的に騒音障害の防止のための活動を行わせるようにさせる。

 

 ⑤聴力検査

 

 定期的な聴力検査を行い、高音域の聴力低下した者を早期に発見する。

 

 会社が、このような騒音性難聴の発生を防止するための対策を怠っていた場合、安全配慮義務違反が認められて、労働者は、会社に対して、労災保険からの補償では足りない損害について、損害賠償請求をすることができることがあります。

 

 当事務所では、労災事故で不幸にも後遺障害が残ってしまった方が適切な補償を受けられるために、労災申請のサポートをさせていただいております。

 

 また、当事務所では、労災事故において、安全対策を怠った会社に対する損害賠償請求の事件に、積極的に取り組んでおります。

 

 労災事故にまきこまれて、これからどうすればいいのかお悩みの場合には、ぜひ、当事務所へご相談ください。