過労死事件で会社に損害賠償請求をするには【弁護士が解説】
Q 家族が長時間労働の末に過労死しました。長時間労働をさせた会社に対して、損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。
A 労災認定を受けた後に、会社に対して、安全配慮義務違反を根拠に損害賠償請求をすることが可能です。
1 過労死の労災申請
大切なご家族が過労死した場合、最初にするべきは労災申請です。
過労死が労災と認定されれば、労災保険から、遺族補償給付が支給され、ご遺族の生活が一定程度、安定します。
また、過労死が労災と認定されれば、会社が労動者対して、長時間労働をさせていたことが裁判で立証しやくなります。
労災認定後は、会社に対する損害賠償請求がスムーズにすすみ、裁判をしなくとも、会社との話し合いで、示談が成立することもありえます。
それでは、どのような場合に、過労死が労災と認定されるのでしょうか。
過労死が労災と認定されるためには、過労死の労災認定基準における認定要件を満たす必要があります。
過労死の労災認定基準における認定要件とは、次の2つです。
①対象疾病を発症したこと
②業務による過重負荷があったこと
①対象疾病には、脳の病気と心臓の病気の2つがあります。
脳の病気は、脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症です。
心臓の病気は、心筋梗塞、狭心症、心停止、重篤な心不全、大動脈解離です。
②業務による過重負荷とは、長時間労働をしていたことです。
過労死における長時間労働とは、具体的には、発症前の1ヶ月間に概ね月100時間を超える時間外労働、または、発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって概ね月80時間を超える時間外労働をしていたことです。
1ヶ月80時間の時間外労働を、いわゆる過労死ラインといいます。
1ヶ月間80時間の時間外労働をすると、1日6時間程度の睡眠を確保できなくなります。
このように、長時間労働によって、睡眠不足となり、疲労が蓄積して、血圧が上昇し、血管の病変が起きて、脳や心臓の病気を発症して、過労死に至るのです。
過労死の労災認定で重要になってくるのは、1ヶ月に80時間を超える時間外労働をしていたことを証明するために、労働時間がわかる証拠を確保できるかということです。
労動者が労働日に、何時から何時まで働いていたのかがわかる証拠がなければ、労働基準監督署は、過労死を労災と認定してくれません。
そこで、労働時間を証明するための証拠として、タイムカードやパソコンのログデータ、メールの送信時刻などを調査します。
労働時間を証明するための証拠が遺族の手元になく、会社に残っている場合には、証拠保全という裁判手続を利用して、証拠を入手することも検討します。
労働時間を証明できる証拠を確保して、労働基準監督署へ、労災の申請をします。
過労死が労災と認定されれば、労災保険から、遺族補償給付を受給できます。
遺族補償給付として、①遺族補償年金、②遺族特別年金、③遺族特別支給金が支給されます。
遺族補償給付として、いくらの支給がなされるのかを、次のケースをもとに、計算してみます。
例えば、年収約500万円、年間ボーナス約73万円、ご遺族が妻と子供2人の場合、遺族補償給付として、次の金額が支給されます。
①遺族が3人の場合、遺族補償年金として、給付基礎日額の223日分が支給されます。
給付基礎日額とは、過労死した日の直前3ヶ月間の給料の総支給額を日割り計算したもので、今回のケースでは、1万4000円とします。
遺族補償年金として、1万4000×223=312万2000円(年額)が支給されます。
年金ですので、2ヶ月に1回、支給されます。
②遺族が3人の場合、遺族特別年金として、算定基礎日額の223日分が支給されます。
算定基礎日額とは、1年間の賞与を365日で割ってえられた金額です。
今回のケースでは、算定基礎日額は、73万÷365=2000円となります。
遺族特別年金として、2000×223=44万6000円(年額)が支給されます。
③遺族特別支給金として、1回だけ、300万円が支給されます。
このように、過労死が労災と認定されれば、労災保険から、遺族補償給付を受給できるので、ご遺族の生活が一定程度、安定します。
2 会社に損害賠償請求をする必要性
もっとも、労災保険からの遺族補償給付だけでは、ご遺族に発生した全ての損害をまかなうことはできません。
遺族補償給付だけでは、まかなえない損害として、逸失利益があります。
逸失利益とは、過労死がなければ、得られたであろう、過労死した労動者の将来の収入の利益のことをいい、次の計算式で算出されます。
逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
生活費控除率とは、労動者の死亡により、将来の収入から支払われるはずであった労動者の生活費の支払を免れるため、将来の生活費相当分を控除する一定の割合をいいます。
また、将来発生する収入を今もらうことになるので、それを預金として運用すれば、利息がつくので、その中間利息を控除するために、ライプニッツ係数という数字を用います。
例えば、死亡当時40歳、年収600万円、ご遺族が妻と子供1人のケースで逸失利益を計算してみます。
この場合、生活費控除率は、被扶養者が2人以上なので、30%になります。
就労可能年数は原則として、67歳までとされていますので、就労可能年数27年間に対応するライプニッツ係数は、18.3270です。
そのため、逸失利益は、600万×(1-0.3)×18.3270=7697万3400円となります。
もっとも、ご遺族が既に受給した遺族補償年金の合計額は、逸失利益から控除されます。
仮に、ご遺族が200万円の遺族補償年金を受給していた場合、逸失利益は、7697万3400-200万=7497万3400円となります。
また、労災保険からは、慰謝料は支払われませんので、会社に対して、請求する必要があります。
一家の支柱が死亡した場合の慰謝料は2800万円になります。
そのため、このケースでは、労災保険から支給される遺族補償年金の200万円以外に、逸失利益7697万3400円、死亡慰謝料2800万円の合計1億0497万3400円の損害が発生したことになります。
労災認定された後に、労災保険ではまかなうことができない損害について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。
3 過労死の安全配慮義務とは
過労死事件で、会社に対して、損害賠償請求が認められるためには、会社に、安全配慮義務違反が認められなければなりません。
安全配慮義務とは、労働者が生命、身体の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすべき義務をいいます。
ようするに、会社は、労動者が安全に働けるように、必要な対応をしなければならないのです。
過労死事件における、会社の安全配慮義務とは、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が、過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように、注意する義務です。
もう少し、具体的にいいますと、次のような義務です。
①労働時間、休憩時間、休日等について適正な労働条件を確保させる義務。
すなわち、会社が労動者に対して、休憩時間や休日を与えずに、長時間労働をさせて、過労死が発生した場合、会社には、安全配慮義務違反が認められます。
②健康診断を実施したうえ、労働者の健康状態を把握し、健康障害を早期に発見すべき義務。
すなわち、会社は、健康診断の結果に基づいて、問題があれば、労動者に対して、病院受診を促すなど適切な措置をとることが必要になります。
③休暇の取得、勤務軽減、仕事の変更など、労働者の健康のための適切な措置を講じる義務。
すなわち、会社は、過労状態にある労動者に対して、残業の禁止、勤務時間の短縮、夜勤をさせないなどの措置をとることが必要になります。
このように、会社に安全配慮義務違反が認められるかについて調査し、会社に対して、損害賠償請求をするかを検討します。
会社に対する損害賠償請求が認められれば、会社の責任が明確になり、ご遺族の無念な思いが一定程度、緩和されることがあります。
過労死事件で、会社に対して、損害賠償請求をするためには、専門的な知識が必須になりますので、ぜひ、労働問題に強い弁護士にご相談することをおすすめします。
当事務所では、過労死事件をなんとかしたいとお考えのご遺族のサポートをしておりますので、ご相談ください。
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