腰痛で労災認定してもらえるのか?【弁護士が解説】
1 腰痛の労災認定基準
会社のオフィスでデスクワークをしていたら、腰痛になりました。
腰痛の原因は、会社の椅子が私の体型にあっていないからだと思います。
このように、仕事で腰痛になった場合、労災と認定されるのでしょうか。
結論から先に言いますと、腰痛の労災認定基準は厳しく、デスクワークの腰痛が労災認定される可能性は低いのが現状です。
今回は、腰痛の労災認定基準と、腰痛による損害賠償請求について、わかりやすく解説します。
まずは、腰痛の労災認定基準について解説します。
労災の腰痛は、2種類あります。
①災害性の原因による腰痛と、②災害性の原因によらない腰痛です。
①災害性の原因による腰痛とは、突然発生した腰痛のことです。
災害性の腰痛は、次の2つの要件を満たす必要があります。
⑴腰部の負傷または、腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる、通常の動作と異なる動作による、腰部に対する急激な力の作用が、業務遂行中に突発的な出来事として生じたと、明らかに認められるものであること
例えば、転倒して腰を強打したり、何か物が飛んできて、よけようとして、腰をひねったところ、靭帯などの軟部組織の損傷を生じたような場合が、⑴の要件に当てはまります。
⑵腰部に作用した力が腰痛を発症させ、または、腰痛の既往症若しくは、基礎疾患を著しく増悪させたと、医学的に認めるに足りるものであること
ようするに、腰痛の発症を、仕事中の出来事が原因であると、医学的に証明できることが要件となります。
②災害性の原因によらない腰痛は、突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取り扱う業務等、腰に過度の負担のかかる業務に従事する労働者に発症した腰痛のことをいいます。
②災害性の原因によらない腰痛は、⑴筋肉等の疲労を原因とした腰痛と、⑵骨の変化を原因とした腰痛の2つがあります。
⑴筋肉等の疲労を原因とした腰痛は、次のような業務に、約3ヶ月以上従事したことによる、筋肉の疲労を原因として腰痛になった場合をいいます。
・約20kg以上の重量物又は重量の異なる物品を、繰り返し中腰の姿勢で取り扱う業務(港湾荷役など)
・毎日数時間程度、腰にとって極めて不自然な姿勢を、保持して行う業務(電柱で作業をする配電工事の仕事など)
・長時間立ち上がることができず、同一の姿勢を保持して行う業務(長距離トラックの運転など)
・腰に著しく振動を受ける作業(建設用機械の運転業務など)
⑵骨の変化を原因とした腰痛とは、次のような重量物を取り扱う業務に、約10年以上にわたって、継続して従事したことによる、骨の変化を原因として腰痛になった場合をいいます。
・約30kg以上の重量物を、労働時間の3分の1程度以上に及んで、取り扱う業務
・約20kg以上の重量物を、労働時間の約半分程度以上に及んで、取り扱う業務
以上が、腰痛の労災認定基準です。
①災害性の原因による腰痛については、腰痛を発症した原因(転倒して腰を強打した等)がわかりやすいです。
他方、②災害性の原因によらない腰痛については、加齢などの別の発症原因が考えられることから、仕事が原因で腰痛が発症したといえるのかが問題となります。
そのため、②災害性の原因によらない腰痛については、次の事実を検討します。
・どれくらいの就労期間中
・どれくらいの労働時間
・どのような重さの物を
・どのような頻度で運んでいたのか
・どのような姿勢をとる必要があったのか
・筋肉などの疲労や骨の変化を医学的に確認できるのか
・腰痛の原因が筋肉疲労や骨の変化であると医学的にいえるのか
これらの事実関係を調査して、腰痛が労災と認定されるのかを検討します。
もっとも、腰痛は、加齢による影響や、運動不足による腰部・腹筋などの脆弱化といった、要因でも腰痛が発症することから、腰痛による、労災認定は一般的に難しいのが現状です。
2 会社に対する損害賠償請求
次に、腰痛が労災認定された後の、会社に対する損害賠償請求について、解説します。
腰痛が労災認定された場合、労災保険から、治療費や会社を休んでいた期間の休業補償が支給されます。
また、腰痛について後遺障害が残った場合には、後遺障害の等級に応じた補償を受けられます。
しかし、労災保険から支給される、後遺障害の補償では、労働者に発生した、全ての損害を補填することにはなりません。
そして、慰謝料については、労災保険から支給されません。
そこで、労災保険の補償では足りない損害や、労災保険から支給されない慰謝料について、会社に賠償請求するかを検討します。
会社に対して、損害賠償請求をするためには、会社に安全配慮義務違反が認められる必要があります。
安全配慮義務とは、会社が自己の使用する、労働者の生命・健康を危険から保護するように配慮する義務のことです。
安全配慮義務は抽象的な概念であるため、会社にはこのような安全配慮義務違反があったというように、安全配慮義務違反の具体的な内容を、労働者が主張する必要があります。
腰痛について、会社の安全配慮義務違反を主張する際に、厚生労働省が公表している、「職場における腰痛予防対策指針」が参考になります。
「職場における腰痛予防対策指針」には、腰を痛めやすい仕事内容ごとに、腰痛を防止するための効果的な対策が記載されています。
そのため、会社が、「職場における腰痛予防対策指針」に記載されている、腰痛を防止するための効果的な対策を、何もしていなかった場合に、会社に対する、安全配慮義務違反が認められやすくなります。
例えば、会社が、荷卸の際の補助具導入について、トラック運転手に対して、台車を使用できるように配慮すべきであったとして、安全配慮義務違反が認められた、信濃輸送事件の長野地裁平成19年12月4日判決(労働判例967号79頁)があります。
また、会社が、腰痛をうったえている労働者に対して、作業時間の短縮や、腰に負担のかからない他の業務への配置転換をすべきであったとして、安全配慮義務違反が認められた、おきぎんビジネスサービス事件の那覇地裁沖縄支部平成18年4月20日判決(労働判例921号75頁)があります。
このように、腰痛が労災と認定された場合には、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討してみてください。
最後に、当事務所で、腰痛の労災認定をかちとった事例がありますので、こちらのページをご参照ください。
https://kanazawa-rousai.com/solve_case20220710
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