労災における精神障害 弁護士に相談するべき?

 

 

 上司からパワハラを受けて、うつ病を発症しました。

 

 うつ病の治療は、時間がかかるため、労災保険を利用したいです。

 

 精神障害の労災申請を自分でするか、弁護士に依頼するかで迷っています。

 

 精神障害の労災について、どの段階で弁護士に相談するのがよいのでしょうか。

 

 結論から先に言いますと、まずは精神障害の治療を優先させ、治療が終了するタイミングで、弁護士に相談するのがよいです。

 

 今回は、精神障害の労災を弁護士に相談するタイミングについて、わかりやすく解説します。

 

1 精神障害の労災の状況

 

 まずは、精神障害の労災の状況を、厚生労働省から公表されている資料をもとに解説します。

 

 令和元年度から令和5年度の5年間における、精神障害の労災申請の件数は次のとおりです。

 

 令和元年度  2060件
 令和2年度  2051件
 令和3年度  2346件
 令和4年度  2683件
 令和5年度  3575件

 

 令和元年度から令和5年度の5年間で、仕事が原因で、精神障害を発症したとして、労災申請をする件数が右肩上がりで増加しています。

 

 仕事が原因で、精神障害を発症したとして、労災申請をしたとしても、労災と認定される確率は、31%~35%であり、労災と認定されないことも多いです。

 

 また、全国の労働局では、総合労働相談という、労働問題の相談窓口があり、そこに寄せられる労働相談のうち、約20%は、職場におけるいじめや嫌がらせです。

 

 すなわち、労働相談で最も多いのは、パワハラなのです。

 

 職場におけるパワハラが増えていることから、精神障害の労災申請の件数も増加していると考えられます。

 

2 治療を最優先にする

 

 

 うつ病等の精神障害は、治療に時間がかかるため、弁護士に相談する前に、まずは治療を最優先にしてください。

 

 例えば、うつ病は、急性期→回復期→再発予防期という経緯をたどり、回復するのに、半年から1年ほどかかると言われています。

 

 また、うつ病は、様々な要因で、治療が長期化することがあり、再発の可能性も高いと言われています。

 

 そのため、主治医のアドバイスを素直に受け止め、まずは、精神障害の治療に専念すべきと考えます。

 

 精神障害が労災と認定された場合、労災保険から、精神障害の治療費が全額支給されます。

 

 そのため、精神障害の治療費が無料になります。

 

 また、精神障害のために、会社を休業している期間、労災保険から、給料の約80%が支給されます。

 

 そのため、安心して治療に専念することができます。

 

 労災保険では、精神障害が症状固定と判断されるまで、治療費と休業の補償を受けることができます。

 

 症状固定とは、現在の医療では、これ以上治療を続けても症状の改善が見込まれないと判断されることをいいます。

 

 症状固定の時期を迎えますと、労災保険からの治療費と休業の補償が打ち切られることになります。

 

精神障害の後遺障害

 

 症状固定の時点において、後遺障害が残った場合、労災保険から、後遺障害の等級に応じて、補償を受けることができます。

 

 うつ病等の脳の器質的損傷を伴わない精神障害を、非器質性精神障害といい、労災では、非器質性精神障害の後遺障害は次のように認定されます。

 

 第9級の7の2 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの

 

 第12級の12 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの

 

 第14級の9 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの

 

 労災において、精神障害が後遺障害と認定された場合、労災保険から、障害補償一時金、障害特別一時金、障害特別支給金が支給されます。

 

先に傷病手当金を受給する

 

 精神障害の労災申請をしても、労災と認定されるまでに時間がかかります。

 

 労災と認定されるまでの期間、会社を休業していますと、給料は支給されず、生活が破綻するリスクがあります。

 

 そこで、精神障害の労災申請をする前に、傷病手当金を先に受給します。

 

 傷病手当金を受給できれば、給料の約3分の2が補償されますので、安心して治療に専念することができます。

 

 傷病手当金を受給した後に、労災申請をし、労災と認定されれば、労災保険から支給される休業補償給付を受給した後に、傷病手当金を返金します。

 

 傷病手当金と労災保険の休業補償給付を、二重に受給することはできません。

 

 労災と認定されなければ、最大で1年6ヶ月間、傷病手当金を受給することになります。

 

 労災と傷病手当金については、こちらの記事をご参照ください

 

3 精神障害の労災申請のポイント

 

 精神障害が労災と認定されるためには、次の3つの要件を満たす必要があります。

 

 ①対象疾病である精神障害を発症していること

 

 ②対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

 

 ③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと

 

 このうち、労災認定の際に最も重要になるのは、②の「強い心理的負荷」が認められるか否かという点です。

 

 この強い心理的負荷で重要になるのは、時間外労働、すなわち、残業時間です。

 

長時間労働

 

 精神障害の労災認定基準では、長時間労働があると、十分な睡眠時間を確保することができなくなり、疲労が回復せず、精神障害を発症することがあるため、長時間労働が、重要な要素とされています。

 

 具体的には、精神障害の発症前の6ヶ月間に、1ヶ月の時間外労働が100時間を超えていれば、労災と認定される可能性が高くなります。

 

 ここでいう、時間外労働は、1週間あたり40時間を超える労働時間をいいます。

 

 精神障害の発症前の6ヶ月間に、1ヶ月の時間外労働が100時間を超え、心理的負荷の強度が「中」と評価される出来事があれば、要件②の強い心理的負荷を満たします。

 

 心理的負荷の強度が「中」と評価される出来事については、こちらの「業務による心理的負荷評価表」をご参照ください。

 

 例えば、職場において、配置転換があった場合、又は、2週間以上、休日のない、連続勤務を行った場合、心理的負荷の強度が「中」と評価される出来事に該当します。

 

 そのため、これらの出来事と、1ヶ月100時間を超える時間外労働があれば、強い心理的負荷があったと認定されます。

 

パワハラ

 

 上司からパワハラを受けたことが原因で、うつ病等の精神障害を発症したことを理由に、労災申請をすることは多いです。

 

 パワハラとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されることをいいます。

 

 パワハラが、労災認定基準において、心理的負荷が「強」と認定されるのは、次の場合です。

 

 ①上司等から,治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合

 

 ②上司等から,暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合

 

 ③上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
  ・人格や人間性を否定するような,業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
  ・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責,他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など,態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃

 

④心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃,精神的攻撃等を受けた場合であって,会社に相談しても適切な対応がなく,改善されなかった場合

 

 ②と③には、「執拗に」と記載されているとおり、パワハラ行為が1回だけでは、労災と認定されるのは難しく、パワハラ行為が何回か繰り返されていないことには、労災と認定されないのがほとんどです。

 

 また、パワハラがあったことを証明する必要があります。

 

 パワハラが、言葉の暴力といった精神的攻撃の場合、録音がないと、パワハラの言葉を言った言わないとなり、証明することが難しいです。

 

 そのため、言葉の暴力のパワハラを受けた場合には、必ず、録音をしてください。

 

4 会社に対する損害賠償請求

 

 労災保険からは、労災事故によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は、支給されません。

 

 また、後遺障害による収入の減少に対応する、労災保険の障害補償給付では、労働者の将来の収入の減少という損害が、全てまかなわれるわけではありません。

 

 このように、労災保険からは支給されない慰謝料や、労災保険からの補償では足りない、労働者の将来の収入の減少の損害について、会社に対して、損害賠償請求ができないかを検討します。

 

 労災事故で、会社に対して、損害賠償請求をするためには、会社に、安全配慮義務違反が認められなければなりません。

 

 安全配慮義務とは、労働者の生命・健康を危険から保護するように、会社が配慮する義務をいいます。

 

 
長時間労働の安全配慮義務

 

 会社は、労動者の労働時間の状況を把握する義務を負っています。

 

 会社が、労動者の労働時間の状況を把握した結果、長時間労働の実態がある場合には、その負担を軽減するための措置をとる必要があるのです。

 

 すなわち、会社は、業務遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して、労動者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負っているのです。

 

 具体的には、会社は、労動者が過重な労働を原因として、健康を損なうことがないように、労働時間、休憩時間、休日、人員配置等、適切な労働条件を設定させる義務や、健康を悪化させている労動者に対して、休暇の取得や勤務を軽減させる等、労動者の健康保持のための適切な措置を講じる義務を負っており、これらの義務に違反した場合、安全配慮義務違反が認められます。

 

パワハラの安全配慮義務

 

 会社は、社内のパワハラを防止するために、パワハラの相談に応じて、適切に対応するために必要な体制を整備すること、及び、パワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応をすることが義務付けられています。

 

 そのため、会社において、パワハラの相談があったにもかかわらず、事実調査を何もせず、パワハラを放置していた場合、パワハラによる生命・身体等への被害発生を防止する措置を講じていないとして、安全配慮義務違反が認められます。

 

 会社に、このような安全配慮義務違反が認められる場合、労働者は、会社に対して、労災保険からの補償では足りない損害について、損害賠償請求をすることができるのです。

 

 会社に対する損害賠償請求が認められ、適切な損害賠償金が支払われることで、今後の生活の安全が確保されることにつながります。

 

 労災事故の損害賠償請求では、会社に安全配慮義務違反が認められるかや、労働者側の落ち度によって、損害賠償請求の金額が減額される過失相殺が認められるか等について、検討する必要がありますので、弁護士に法律相談をすることをおすすめします。

 

 当事務所では、労災保険からの給付を受け取る権利がある方に、一人でも多く、給付を受け取っていただき、みなさまの未来への不安解消と、前を向くきっかけづくりのお手伝いをさせていただきたいと考えております。

 

 当事務所では、初回相談を無料で承っており、メールやLINEでのご相談の受付も行っております。

 

 私達の持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。

 

 労災事故にまきこまれて、これからどうすればいいのかお悩みの場合には、ぜひ、当事務所へご相談ください。

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まずは弁護士にご相談いただき、ご自身の状況や今後の動きについて一緒に考えていきましょう。

 

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